国内の投銭サービスが全滅の危機か|ウォレット業規制強化で
国内の投げ銭サービス(TipBot)の多くが、サービスを継続できなくなる可能性がでてきた。3月15日に閣議決定された「資金決済法」の改正案による影響だ。
投げ銭サービス(TipBot)とは
TwitterやFacebookなどにある「いいね!」ボタン。ちょっとした共感や感謝をボタン一つで気軽に伝える手段として、多くのSNSツールが標準機能として搭載している。日常的に使っている人も多いことだろう。
この「いいね!」ボタンに仮想通貨を組み合わせたようなサービスが、いわゆる「投げ銭サービス」や「TipBot」と呼ばれているものだ。法定通貨よりも細かい単位で、そして法定通貨よりも低コストで送金ができる(マイクロペイメントに強い)という仮想通貨の特性を活かして、少額の仮想通貨をボタン一つで(ある時は匿名で)「いいね!」とともに送金できる。
SNSの投稿に対して、あるいはブログ記事などに対して、チップ(Tip)を投じることができることから前述のように呼ばれ、国内でも多くのサービスが存在し、主に仮想通貨を趣味で楽しむユーザーの間でのコミュニケーションツールとして活用されている。
その多くは個人や有志のコミュニティによって運営されていたり、ほぼ無償に近い形で提供されているという特徴もある。
その投げ銭サービス(TipBot)が国内では運営できなくなる可能性があるという。どうしてだろうか。
規制強化でウォレット業者のハードル高まる
今回の「資金決済法」改正案では仮想通貨の法律上の呼称を「暗号資産」に変更し、仮想通貨で資金を集めるICO(Initial Coin Offering)を金融商品として規制強化するなどの内容に並んで、ウォレット業者への規制強化も盛り込まれている。
従来の「資金決済法」では仮想通貨取引所を規制の対象としてきたが、今回の改正案では新たに「暗号資産の管理のみを行う業者(ウォレット業者)」も「暗号資産交換業」として登録の対象になる。一般的に、投げ銭サービス(TipBot)は送金するための仮想通貨を預かるためにWebウォレットとしての機能を持つ場合が多く、このウォレット業者に該当する可能性が高い。
ウォレット業者に該当する場合、暗号資産交換業に関する規制のうち暗号資産の管理に関する規制が適用されることになる。すなわち、国内の仮想通貨取引所に求められるのと同様に、事業者と顧客の資産を分別管理し、顧客に対しては本人確認を実施し、信頼性の高いコールドウォレットを整備し、ホットウォレットの残高に対しては見合いの弁済原資を確保するなどの基準を満たすことが必要となるのだ。もちろん、取り扱う仮想通貨の銘柄についても当局に届け出てチェックを受けることになる。
無登録で業務を行った場合は懲役を含む罰則規定もある、本格的な規制だ。
金融庁としては、規制によって利用者保護の体制構築を促すほか、本人確認の義務化によって不正な資金の流通経路を遮断することでマネーロンダリング(資金洗浄)を防止することを狙いとしているという。マネーロンダリング対策を推進する国際機関「金融活動作業部会」(FATF)も各国政府にウォレット業者への対策強化を求めており、日本もこの動きに沿った形といえる。
仮想通貨は「個人の趣味」から「金融商品」へ
利用者保護やマネーロンダリング対策の文脈から見れば、仮想通貨取引所もウォレット業者も顧客の資産を管理しているという点では同じであり、今回の規制強化の動きは当然の流れと言えるかもしれない。
一方で、前述した規制をクリアできる投げ銭サービス(TipBot)は多くないとみられる。冒頭でも触れている通り、投げ銭サービス(TipBot)は個人や有志のコミュニティーで運営されているケースが多く、またそもそも取り扱う金額が小さいことから収益性も高くない。規制をクリアするのは、体制的にもコスト的にも困難なケースが大多数となることだろう。
ビットコインは「サトシ・ナカモト」と名乗る人物が公開した論文に興味をもった有志のプログラマー達が、分担してコードを書いて開発したのが始まりと言われる。その後、現在に至るまで有志によって多くの仮想通貨が世に生み出されてきた。
モナコインを代表とする国産仮想通貨の多くもそうした有志によって開発されたいわば「個人の趣味」の集合体であり、投げ銭サービス(TipBot)もそうした流れの中で誕生し、初期の仮想通貨における数少ない用途の一つとしてその発展に貢献してきたと言えるだろう。
しかし、仮想通貨が社会に浸透していくにつれて「個人の趣味」から「金融商品」としての側面が注目されるようになった。後を追うような形で法的な基盤も整備・拡充され、それに伴うように大企業を含む多く企業が仮想通貨ビジネスに参入しはじめた。
環境が激変していく中で、果たして投げ銭サービス(TipBot)は存続していくことができるだろうか。
金融庁は本国会での法案成立を目指し、2020年6月までに同法案を施行する見通しだとしている。
金融庁:国会提出法案
(「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」を参照)