150億ドル押収をめぐる前例なきサイバー作戦疑惑
米国政府がカンボジアの犯罪ネットワークを制裁する過程で、脆弱なウォレットをハッキングして約150億ドル(約2.25兆円相当)相当のビットコイン(Bitcoin/BTC)を押収した可能性が浮上している。
オンチェーン分析では、財務省の公式説明と異なる資金移動が確認され、国家による仮想通貨の取得手法に新たな疑問が生じている。
米国政府は、カンボジアの複合企業プリンスグループを中心とする詐欺ネットワークへの制裁を発表し、約150億ドルに相当する127,271BTCを押収したと説明している。しかし、仮想通貨調査員のZachXBTによるオンチェーン分析では、没収対象となったウォレットが「Milk Sad」レポートで脆弱(ぜいじゃく)な秘密鍵としてマークされていたことが判明した。
これにより、政府またはその関係者が脆弱なウォレットを直接ハッキングして資金を移動させた可能性が浮上している。ZachXBT氏もこの件に言及し、脆弱な秘密鍵を持つウォレットが現在米国政府の管理下にあることを指摘した。
What’s most interesting is wallet addresses listed in the US government $14B (127K BTC) seizure previously were named in a Milky Sad report ~2 years ago for having vulnerable private keys and now the USG says they have custody of them. https://t.co/sHNwMXhLKH pic.twitter.com/icLWKU33kC
— ZachXBT (@zachxbt) October 14, 2025
最も興味深いのは、米国政府による140億ドル(127KBTC)の押収品に記載されたウォレットアドレスが、脆弱な秘密鍵を持つものとして約2年前のMilky Sadレポートで名前が挙がっていたこと、そして現在、米国政府がそのウォレットアドレスを保管していると述べていることです。
もしこの見方が正しければ、米国政府は従来の押収・返還・オークションという透明な処理を離れ、国家主導のサイバー作戦によってビットコインを取得したことになる。これまで米国は押収した仮想通貨を被害者に返還し、該当しない場合は公開オークションで売却してきた。今回の事例が事実であれば、その前例を覆す異例の措置となる。
陳志氏とプリンスグループの実態
制裁対象となったプリンスグループの代表、陳志(Chen Zhi)氏は、カンボジアやミャンマーで複数の強制労働キャンプを運営し、人身売買の被害者に仮想通貨詐欺を強要していたとされる。
さらに、同グループは政治家への贈賄や情報漏えいを通じて捜査を回避していたと報告されている。また、マイニング企業「Warp Data」や「Lubian」を利用して資金洗浄し、2021年から2024年にかけて少なくとも40億ドル(約5,997億円)をマネーロンダリングしたとされる。
OFAC(米国財務省外国資産管理局)は陳氏を含む146名に制裁を科し、127,271BTCを犯罪収益として差し押さえた。
しかし、ウォレットの実際の所有者が不明確であることから、押収ではなく奪取だったのではないかという指摘もあるが、この矛盾が、米国政府が戦略的にビットコイン準備金を積み増しているのではないかという見方を強めている。