日銀・黒田総裁、「日本の独自デジタル通貨に需要はない」
日本銀行の黒田晴彦総裁が、「日本のデジタル通貨に需要はない」と見解を示した。FSIC(金融情報システムセンター)の35周年記念で行われたシンポジウムの講演にて明らかとなった。「決済のイノベーションと中央銀行の役割 ― ステーブルコインが投げかけた問題 ―」と題されたこの講演で、黒田総裁はリブラのような民間企業が発行するグローバルなステーブルコイン(以下:GSC)や政府発行のデジタル通貨(CBDC)について言及した。
黒田総裁によれば、日本の未払いの現金の量は依然として多く、政府が独自のデジタル通貨を発行しても一般からの需要はないとのこと。一方で、将来的にその必要性が生まれた時のために、この問題に関する技術的および法的な研究を進めていると述べている。加えて、現在民間企業が手がけているデジタル通貨に関しては使用と改善を奨励しているとのこと。黒田総裁は先月19日に行われた参議院財政金融委員会においても、デジタル通貨発行の予定はないが、将来的な可能性を含めて検証していることを明かしている。
リブラなどステーブルコインのリスクについても言及
このシンポジウムで黒田総裁は、昨年最も話題になったのはフェイスブックのリブラだとしたうえで、「法的かつ技術的に安全が確保されれば、多くの人が利用する決済手段となる」と見解を示した。いっぽう、リブラのようなGSCのリスクについても言及した。
具体的には、マネーロンダリングやサイバー攻撃、個人情報などのデータ保護や投資家保護など、解決すべき課題が多い点を指摘。それだけでなく、「金融市場の安定性を壊す恐れがある」とリスクの高さを強調した。
金融政策と企業のステーブルコイン
黒田総裁が指摘するように、リブラのような企業発行のGSCは良い面だけではない。たとえば、国内で普及している電子マネーは実質的には法定通貨をデジタル化しているだけで、あくまでも決済手段である。電子マネーによっても前払いや後払いなど異なるが、法律上の区分でも決済手段として明記されている。
一方で、リブラのようなGSCが普及し法定通貨から完全に代替された場合、政府の金融政策の波及力が減少し機能しなくなる恐れがある。この点に関しては、講演時に黒田総裁も指摘している。また、システム上のトラブルが発生した際の影響も計り知れない。現金では想定し得なかったようなリスクが、GSCなどのステーブルコインには数多く存在している。