仮想通貨取引所BiteBTCの火災事故とは何だったのか|驚きの返金方法と迫る申請期限

火災事故の仮想通貨取引所BiteBTC、返金申請の期日せまる

1月1日にデータセンターで火災が発生し、顧客情報の一部が消失してしまったシンガポールの仮想通貨取引所BiteBTC。アカウントから残高が消えてしまった、あるいはアカウント自体が消えてしまった顧客が、本来自分に属するべき残高の返金を求めるために用意された申請フォームの提出期限が1月末にせまっている。

28日に同取引所が発表した文書(英文)は、次のような書き出しで始まる。

コイン再配分の申込は2019年2月1日の0時0分0秒(UTC)で締め切られます。(中略)1月1日の事象の影響を受けた全ての顧客は、専用フォームから可能な限り正確に、全ての入出金を報告して下さい。

いったい何が起きているのか。
返金に向けたひとつの区切りを前に、改めて事故の全体を振り返ってみたい。

仮想通貨取引所で事故が起こると顧客はどのような状況に陥るのか、そしてその時、あなたの備えは十分だろうか。本稿が参考になれば幸いである。(尚、本稿での日付は特に断りのない限り日本時間にて表記)

事故発生 ~ 最初の声明

世界中が新しい一年の幕開けを祝っていた2019年1月1日、事件は静かに幕を開けた。BiteBTCのサイトが突然、全く接続できない状態に陥ったのだ。

仮想通貨取引所は株式市場等とは違い基本的に24時間稼働が当たり前だが、その代わりに不定期でメンテナンスが発生することもある。しかしそれでも事前に告知があるか、Sorryページ(メンテナンス中である旨を告げるなど、ユーザーに謝るために用意されたページ。通常はサイトデザインの延長線上で綺麗に整形されたデザインであることが多い)の表示がされるのが通常であるが、この時のBiteBTCは純粋にサイトへ接続できないに状態に陥っていた。

この時のTwitterのタイムライン上には、困惑するユーザーの声が残されている。

  • BiteBTCがメンテナンス中のようですが、これは予定されたメンテナンスですか?(英語)
  • BITEBTC新年そうそうメンテ?(日本語、原文ママ)

一抹の不安を抱いていることを感じさせるコメントが続く中、新年は二日目を迎える。

すると状況に変化が起こった。BiteBTCのサイトへ接続できるようになったのだが、今度は別の問題がユーザーを襲ったのである。1月2日午前4:30を皮切りにTwitterに多数の報告が上がった。

  • BiteBTCどうした?開けない、ログインしても開けない(英語)
  • 私のアカウントにログインできない!(英語)

次第に大勢が同様の症状に気付き始めると、Twitter上には(ある意味では当然の反応として)あるキーワードがあふれ始めた。

  • BiteBTCはSCAM!SCAM!SCAM!合法泥棒!あいつらは出金させずにアカウントを削除した!(英語)
  • 私のアカウントの全てのコイン残高がゼロになった。何が起きているの、これはSCAMですか?(英語)
  • BiteBTCはSCAMをした。やつらは全てのアカウントを削除した。(英語)
  • BiteBTCにログイン出来ないが? GOXか?(笑) 0.3dogeと個人情報盗まれた?(笑) (日本語、原文ママ)

SCAM(詐欺)や、GOX(仮想通貨が紛失すること)という単語を使ってユーザーが不安と怒りを吐露し始めたのだ。

BiteBTCには国産仮想通貨も多く上場しており、この際に各コイン運営チームがとった対応も印象的である。怒号のようなTweetが飛び交う中、国産仮想通貨BellcoinのTwitterアカウントはユーザーに冷静に注意を呼びかける次のようなTweetを残している。

  • BiteBTCのメンテナンスは終了したように見えますが、BiteBTCから正式なアナウンスがあるまではくれぐれもご注意いただきますようお願いいたします。

また、TweetではないがSanDeGo運営チームもDiscordコミュニティ内で正式アナウンスまでログインを控えるようコインユーザーに注意喚起していた。ユーザーや上場するコイン運営が翻弄される中、ただひとつ当のBiteBTCだけが沈黙を続ける状態が続き、それがまた混乱を助長する構図が出来上がっていた。

渦中のBiteBTCからようやく声明が発表されたのは、更に日が進んだ1月3日になってからのことだ。

2019年1月1日、取引所サーバーが設置されているデータセンターで火災が発生しました。その結果、メインサーバーとバックアップサーバーのデータの一部が破壊されました。全ての仮想通貨ウォレットは無事ですが、バランスシートと約7%の顧客の取引履歴を復元する必要があります。皆様の最近の取引とウォレット操作履歴を添えてサポートフォームに報告するようお願いします。このような状況をお詫び申し上げます。

BiteBTC1月3日声明文(記事筆者にて翻訳)

再配布ロードマップの発表

BiteBTCの声明によって混乱が収拾されることはなく、むしろ火に油を注いだかのようにユーザーの反発は拡大した。たった数行のコメントでは、事態を全てのユーザーに納得させるためにはあまりにも不足していたといえるだろう。BiteBTC側も混乱していたことが想像できるが、残高を失ったユーザーの混乱はそれ以上だろう。Twitter上は怒号にも近い怒りのTweetで埋め尽くされた。

  • BiteBTCチームへ、もしあなたがSCAMではないというなら今すぐに全員のアカウントを元に戻しなさい。また、このような時に新たな上場はやめなさい!(英語)
  • でもね、近々の取引履歴すら見れないのよね だってログイン出来ないんだから 火事なんて嘘でただの持ち逃げでしょ スキャム取引所ですものw(日本語、原文ママ)
  • 出口詐欺だ!もう二度と、二度と、金輪際この取引所を使わないでください!注意!(英語)
  • BiteBTCは壮大な詐欺会社です。全てのアカウントが消されました。信じられません。私は問い合わせをしていますが、返事がきません。終わりだ。(英語)

こうした状態が数日続いた後、事態がようやく進展を見せ始めたのが1月8日である。BiteBTCがCoin Redistribution Roadmap(コイン再配布ロードマップ)を発表したからだ。

今度の発表は前回とは異なり長文であるため、全文は参照元をご確認頂きたいが、要点としては次のような内容を述べている。

数多くの苦情や問い合わせを受けているが、全てには答え切れていない。サイトとTwitterで報告するので見て欲しい。

我々(BiteBTC)は2018年9月4日~2019年1月1日までのデータの一部を復旧することができなかった。一方でウォレットは無事であり、コインはほぼ完全に保存されている。

我々は資金をユーザーに返金するつもりで、BiteBTCからの引き出しを制限するつもりもない。返金に向けてコイン再配布ロードマップを作成した。

  1. アカウントにアクセスできないユーザーは、再度アカウント登録をして本人確認書類を再提出する
  2. ユーザーはBiteBTCへの入出金についてのトランザクションID、金額、アドレスをBiteBTCへ申請する
  3. それらのデータを集計し、取引所ウォレット残高と照合したうえで、申請したトレーダーに比例分配する。
  4. 余りが生じた場合には、残りのコインはエアドロップキャンペーンで配布する。

BiteBTC1月8日発表要約

勘の良い方でもそうでない方でも、この内容を見ればすぐにお察しのことと思うが、これは正確な残高を補償するためのプロセスとは言えない。正確な残高はもはや復旧できないとして、せめて取引所が不当な利益を手にした(SCAM)との批判を回避するために、残高を配布する行為といった方が実態に近いと言えるのではないだろうか。

入出金履歴を全て正確に記録し報告できるユーザーばかりではない上に、仮に全て正確に報告されたとしても入金後にBiteBTC内で交換した通貨については全く情報が無いことになる。辻褄があわないところはエアドロップで済ますという点をとっても、補償という性格のものとはいいがたい。(そもそも、再配布する総額が本当にユーザーの残高総額であったことを確認する手段もない)

しかし、これらの不満を声高に叫んだとしても、データが消失した以上はどうしようもないというのが結論になるだろう。データが消えてしまえばもう取返しは付かない。消失事故というのはそれほどにも重大なことなのだ。

締め切り目前にしてステータス画面開示

その後、補足説明や苦情・問い合わせへの回答文、新たなデータセンター構築への投資計画の発表(詳細はNEXT MONEYの別稿をご参照願いたい)等を間に挟みつつも、基本的には1月8日に発表されたコイン再配布ロードマップの通りに進んでいる。

そして、申請期限が到来する3日前にあたる1月28日にBiteBTCから新たな発表が行われた。それが本稿冒頭で触れた文書、Coin Redistribution Status(コイン再配布状況)についてだ。

コイン再配分の申込は2019年2月1日の0時0分0秒(UTC)で締め切られます。これまでの間は、複数の顧客が同じ取引を申請することができるため、コイン払い戻しをすることはできません。1月1日の事象の影響を受けた全ての顧客は、専用フォームから可能な限り正確に、全ての入出金を報告して下さい。

申請処理を容易にするため、あなたの申請内容とそのステータスを確認できるセクションを作りました。

申請が正しく処理され、該当取引が特定できた場合は少なくとも2月1日までステータスが「Pending」になります。申請がすでに却下されている場合は、申請内容をもう一度確認して再度申請して下さい。

申請結果は2月1日から数日間かけて照合していくため、その日にコインが入金されなくても心配しないで下さい。再検査が必要な申請が多数あることでしょう。そのため、コインの所有権の追加の証明を顧客に依頼することがあります。

ご理解とご協力に感謝します。

BiteBTC 1月28日発表分(記事筆者にて翻訳)

以上がBiteBTC火災事故における、これまでの経緯である。一連の出来事とユーザー・取引所の反応を見て、あなたは何を感じただろうか。

利用者にも求められる心構え

本稿はBiteBTCがSCAMであるかどうかを論じるものではない。返金方法についても、少なくとも火災によってデータの一部が永久に失われたとするBiteBTCの発表を信じるならば、ある程度割り切りが必要であることも理解できよう。

仮想通貨取引所は多数の顧客から資産を預かっているが、その資産の安全を脅かすのは外部のハッカーだけとは限らない。仮想通貨取引所内部に悪意を持った人物がいる可能性もあれば、今回のように不慮の事故によって大切なデータが消失してしまうこともあり得る。しかし、そうした悲劇を防ぐためのセキュリティや内部管理体制について、利用者が事前に熟知することは容易ではない。

せめてもの基準として、コールドウォレットに対応しているか、マルチシグに対応しているか、2段階認証機能があるか等のわかりやすいセキュリティ対策の有無をチェックしている人も多いだろう。しかし内部管理体制ともなると、なかなかわからないものだ。

日本の仮想通貨取引所ならば金融庁が仮想通貨交換業者に認可しているかどうかでその点を評価できる。しかし、規制によって消費者が保護されている反面、取り扱える仮想通貨が極めて限定されるなど多くの制約を生んでしまっている面もある。取引したい通貨を扱っている取引所が海外の少し不安な取引所しかなければ、そこを使うしか選択肢がないというケースもあるだろう。

ならば利用者にできる防衛策とは何だろうか。月並みではあるが、下記の基本を押さえることが大事だろう。

  • 常にリスクがあることを念頭におき、取引所には取引に必要最低限の金額しか置かないこと。
  • 2段階認証など、その取引所が用意しているセキュリティオプションは全て設定すること。
  • 取引履歴は記録を取り、少なくともいまいくら残高を置いているかくらいは把握しておくこと。(これは本来、税務上も必要なこと)

そして4つ目に、筆者の見解として一つ付け加えたい。

  • 面倒だといって泣き寝入りしないこと

自助努力をしない者を守ってくれるほど、世の中は甘くない。外国との取引ともなればなおさらだ。

BiteBTCの件に立ち戻るならば、もしあなたも今回の件で失った残高があるならば、期限までにしっかり申請することをお勧めしたい。

ABOUTこの記事をかいた人

仮想通貨投機の熱気に陰りが見え始めた2017年の暮れ頃から仮想通貨に関わり始め、投機よりも実用面に高い関心を持つ。国産仮想通貨プロジェクトやWebサービスの運営に携わりつつ現在に至る。