OFACが数十億ドル規模のミャンマーの犯罪シンジケートに制裁
米国財務省は、ミャンマーのカレン民族軍(KNA)とその指導者に対し制裁を発動した。
OFAC(米国財務省外国資産管理局)は2025年5月3日、大規模なサイバー詐欺と人身売買に関与したとしてKNAに対する制裁を発表。KNAは、詐欺シンジケートへの土地の貸し出しや、複数のサイバー犯罪、人身売買被害者がオンラインで詐欺を働くための施設の警備提供から利益を得ている組織だ。
KNAとその幹部は、サイバー詐欺を含む大規模な犯罪活動によってアメリカ国民から数十億ドルもの金を詐取したほか、強制労働や人身売買といった人権侵害にも関与したとして告発されている。ソー・チット・トゥー(Saw Chit Thu)を指導者とし、その息子であるソー・トゥー・イー・ムー(Saw Htoo Eh Moo)とソー・チット・チット(Saw Chit Chit)二人によってタイ・ミャンマー国境沿いで活動展開している。
米国財務省による制裁は、大統領令13581号(改正を含む)および14014号に基づいて発令され、これらの命令により、OFACはビルマの安定を脅かす国際犯罪組織および個人を標的とする権限を付与されており、マイケル・フォークエンダー(Michael Faulkender)財務副長官は次のように述べている。
KNAが行っているようなサイバー詐欺活動は、犯罪組織の首謀者とその関係者に数十億ドルもの収益をもたらす一方で、被害者から苦労して貯めた貯蓄と安心感を奪っている。
精神的に脆弱な被害者を狙う詐欺師たち
財務省の報告書によると、KNAの詐欺行為に関与している者の多くは、自ら望んで参加しているわけではなく、近隣諸国から人身売買され、刑務所のような施設に強制的に収容され、身体的暴力の脅迫の下で詐欺を働かされているという。
詐欺師らは、未亡人や別れを経験した人など、精神的に脆弱な被害者を狙うことが多い。被害者は詐欺プロジェクトに投資するよう仕向けられ、偽の利益に騙されて投資をし続け、犯人が姿を消すまで資金を投じ続け、被害者は深刻な経済的困難に陥っていく。
財務省が引用した推計によると、米国人だけでも2022年には20億ドル(約2,879億円)以上、2023年には35億ドル(約5,039億円)がこのような詐欺被害を受けており、詐欺行為の多くは、ミャンマーの犯罪地域、例えばカレン州のKNA支配地域にまでさかのぼるという。
KNAへの制裁はEUと英国に続き米国でも
ビルマのカレン州シュエコッコに本部を置くKNAは、かつてカレン国境警備隊=BGFとして知られていた組織であり、2024年にKNAに名称を変更している。
この変更はBGFとのつながりを隠蔽(いんぺい)したが、軍閥との協力関係を継続し、BGFが全く影響を受けずに活動できるようになっているという。
KNAは詐欺師に土地を貸し出し、施設に電力を供給するための公共設備を販売し、彼らが通常通り活動を続けられるよう武装警備員を配置。日本国内でも連日報道された特殊詐欺拠点KKパークのような詐欺現場の生還者は、KNAの紋章をつけた制服警備員の存在を証言しており、KNAが人権侵害に直接関与していたことを証明している。
KNAの指導者トゥーは、ビルマ軍への支援と詐欺行為への関与を理由に、既に英国と欧州連合から制裁を受けており、トゥーの指揮下でKNAは犯罪組織を、国境を越えたレベルにまで拡大させている。さらに二人の息子も組織に深く関与しており、ムーはサイバー詐欺センターを含むKNA関連の事業に関与。チットはビルマ軍と協力してKNA部隊を積極的に指揮し、複数のKNA関連企業の株式を保有している。
今回発表された制裁により、KNAとその指導者が米国管轄権内において保有するすべての財産と金融権益が凍結され、制裁対象者は、50%以上を所有するあらゆる事業体にも制裁が適用される。また、米国民は制裁対象者やその凍結資産に関わるいかなる取引も禁止されている。