米国検察当局、テザー関連銀行に対して賠償請求
米国司法省は、民事没収の法的手続きに基づき、人気ステーブルコインTether(テザー)の決済処理で使用された口座を経由した、総額8,420万ドル(約132.8億円)規模の資金没収を申し立てた。
この法的措置のターゲットとなっているのは、カリフォルニア州東部地区連邦地方裁判所に申し立てられたモンタナ州拠点の決済企業Capstone Ltd.(キャップストーン)だ。同社は本来義務付けられている資金移動業の認可を受けずに少なくとも6つの州で業務を展開していた疑いがあり、取引先銀行に対しては「一般的なITサービス企業である」と偽っていたとされる。
また、FBI(米国連邦捜査局)は、すでに同社関係者の自宅に対して捜索令状を執行。弁護側は不正行為を全面的に否定し、早期の解決を模索する姿勢を示しているが、当局による追及の手は緩んでいない。
差し押さえの対象口座と背後に潜むデジタル銀行
今回差し押さえの対象となった8,420万ドルの大部分は、複数の主要金融機関やウォレットに分散して置かれていた。
具体的には、約7,911万ドル(約124.8億円)がCapstone社名義のWells Fargo Securities(ウェルズ・ファーゴ・セキュリティーズ)口座から動かされたものであり、残る資金もJPMorgan Chase(JPモルガン・チェース)や別のウェルズ・ファーゴ口座、さらにはUSDTを保有するウォレットに点在していた。
さらに事態を複雑にしているのが、Capstone社の背後で資金移動の指示を出していたとされる、ドミニカ籍のデジタル銀行EQIBankの存在だ。検察側の指摘によると、同銀行がCapstone社に対して具体的な送金手法を指示していたという。EQIBank側は、今回凍結・没収の対象となった資金が同行の全資産の約80%に相当するため、最悪の場合は清算に追い込まれる可能性があると強い危機感を露わにしている。
テザー社の公式見解と過去の法的トラブル
こうした一連の捜査や資産凍結の動きに対し、テザー社側はロイターや海外メディアの取材に対して素早く反応を示した。
テザー社は、EQIBankが自社のUSDTの購入および償還プロセスにおいて送金業務を担っていた事実自体は認めたものの、Capstone社が関与したとされる一連の不正行為や資金移動のスキームについては「一切関知していない」と真っ向から否定している。
同社の広報担当者が強調したのは、今回のトラブルが自社グループに与える影響の小ささだ。関連するエクスポージャー(リスクにさらされた資産額)はグループ全体の総資産のわずか0.034%未満に留まると説明している。テザー社が直近の四半期末時点で報告した約1,877億5,000万ドル(約29.6兆円)という圧倒的な資産規模に照らし合わせれば、今回の騒動による財務的ダメージは極めて限定的であるという見解だ。
テザー社およびその姉妹企業であるBitfinex(ビットフィネックス)にとって、米国司法当局や規制当局から資金移動の手法を厳しく問われるのはこれが初めてではない。両社は過去に、USDTのドル裏付け体制を巡る指摘からニューヨーク州司法長官と和解に至り、多額の罰金を支払った歴史を持つ。そのため、今回の民事没収申し立てに対しても市場関係者の視線は厳しく注がれている。
今後の展望と利害関係者の対応
現在、差し押さえられた資金を巡っては、Capstone社およびEQIBank側が「善意の所有者」としての法的抗弁を申し立てている。
資産没収手続きを定めた「補足規則G」の規定に基づき、正式な権利主張を行った当事者は、今後政府側の訴えに対して限られた期限内(21日以内)に明確な反論や回答を示すことが義務付けられている。
ステーブルコイン市場全体がかつてない規模へと拡大を続ける中、発行元企業と裏側の決済ネットワーク、そして米国の法執行機関との間の法的綱引きは今後も激しさを増していく公算が大きい。テザー社が「影響は限定的」とトーンを抑えた主張を貫く一方で、関連銀行の存続を揺るがすこの巨額没収劇の行方は、暗号資産エコシステム全体におけるコンプライアンスのあり方に大きな一石を投じることになりそうだ。
























