欧州MiCA規制でテザー(USDT)の取引禁止・撤退へ、空いた市場にはサークル(USDC)が取引拡大

MiCA施行でテザーの戦略的撤退と欧州銀行リスクへの懸念

EU(欧州連合)の包括的な暗号資産規制MiCA(市場暗号資産規制)が2026年7月1日に完全施行され、世界最大の時価総額を誇るテザー(Tether/USDT)ステーブルコインが、EU域内の公認取引所から事実上の撤退を余儀なくされる一方、米Circle(サークル)社の「USDC」がその空白を埋める形で急速にシェアを拡大していることが明らかになった。

MiCA規制に基づき、EU域内で認可を受けたコインベース(Coinbase)、クラーケン(Kraken)、クリプトドットコム(Crypto.com)などの主要取引所は、欧州ユーザー向けのUSDT取引を相次いで停止。これにより、1,800億ドル(約29.25兆円)以上の規模を持つUSDTは、規制対象市場のオーダーブックから姿を消すこととなった。

テザー社はこの事態に対し、EMT(電子マネートークン)としての認可申請を行わないと選択。

テザーのパオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)CEO(最高経営責任者)は、MiCAが規定する「準備金の少なくとも60%を欧州の銀行預金として保有する」という要件について、銀行システム自体に起因するシステミックリスクを生み出すと指摘し、同社の立場を擁護。米国債やグローバルな分散資産に依存する従来の準備金モデルを維持するため、同社は欧州市場への固執を捨て、EU圏外の成長市場へ注力する戦略へと舵(かじ)を切った。

同社は、自社が展開する資産トークン化プラットフォームHadron(ハドロン)プラットフォームを通じて他社のMiCA準拠ステーブルコイン発行を技術面で支援するなど、提携関係による間接的な市場関与は継続している。

サークル社の先見明と機関投資家の後押し

これとは対照的に、サークル社は数年前からこの規制変更を見据えて周到な準備を進めてきた。

同社はフランスでEMI(電子マネー機関)ライセンスを取得し、EU加盟27カ国すべてで適用可能なパスポート制度を活用することで、USDCおよびユーロ建ての「EURC」についてMiCA完全準拠を達成。上位10位のステーブルコインの中で、この新基準をクリアしたのはサークル社のみとなっている。

さらに、法規制の施行直前には米金融大手BNYメロンがUSDCのサポート開始を発表し、機関投資家による保有や送金、発行・償還が容易になった。この規制面と機関投資家双方からの強い後押しにより、流動性プロバイダーやマーケットメーカーもUSDTからUSDCを中心とした流動性構造への再構築を急ピッチで進めている。

岐路に立つ暗号資産企業と新たな競争の幕開け

MiCAの導入は、ステーブルコイン発行体だけでなく、欧州の暗号資産産業全体に淘汰を迫っている。

施行前に登録されていた約1,200社のうち、完全なCASP(暗号資産サービスプロバイダー)認可を取得できたのはわずか17%程度にとどまっており、多くの企業がドバイなど他国の管轄区域へと拠点を移している。また、欧州内ではBNPパリバやINGを含む37の銀行が独自のユーロ建てステーブルコインQivalis(キリバス)の開発を進めるなど、伝統的金融機関の参入による新たな競争もすでに始まっている。

規制による市場の再編は、欧州を発端にグローバルな暗号資産の流動性動向にも影響を与え始めている。

 

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