仮想通貨業界に長引く下落相場|プロジェクトのリストラ相次ぐ

仮想通貨業界に長引く下落相場|プロジェクトのリストラ相次ぐ

ビットコインの相場下落トレンドが史上最長の400日を越えた。最盛期は200万円を超えていたビットコイン価格だが、今では年初に40万円を下回って久しい。

底の見えない弱気相場が続く中、事業規模を縮小しはじめる仮想通貨・ブロックチェーン関連企業が相次いでいる。

仮想通貨取引所COINSQUARE、3割の人員削減

カナダのオンラインメディアBetakitが31日に報じたところによると、同国の仮想通貨取引所COINSQUAREは約150人の従業員のうち約27%をレイオフ(一時解雇)したという。

解雇された従業員の中には同取引所のCFO(最高財務責任者)やCOO(最高執行責任者)も含まれているそうだ。

用語解説:レイオフ

レイオフ(Layoff)とは雇用調整の施策の一つであり、人件費の抑制を目的として業績回復までの期間、労働者を一時的に解雇すること。解雇によるスキル・ノウハウの流出を防ぐことを目的とした手法であり、業績回復時には再雇用されることが前提となる。アメリカでは一般的な手法であるが、日本では法制度等の違いから浸透していない。

同取引所のCEO Cole Diamond氏は今回のレイオフについて「多くの才能ある人々を手放す決断は非常に困難だった」としつつ以下のように語った。

「しかし同時に、資金は過去と同じ速度で私たちの市場に流れ込むことはなく、この使い方には慎重にならなければならない。世界を変える21世紀の金融機関を構築するためには、厳しい決断を下さなければなりません。」

同氏によるとCOINSQUAREのバランスシートには依然として4000万ドルの資産があり、その多くがキャッシュだという。マーケットの急激な拡大と縮小に対応し、貴重な経営資源を守るための迅速な経営判断を行ったということだろう。

COINSQUAREは昨年7月、日本への進出を発表。次いで12月には欧州25ヵ国に進出していた。人員数は過去21ヵ月で3人から150人に増えるなど、急速な拡大を続けていた。

監査企業HOSHOは8割の削減。ICO件数減少で

COINSQUAREの人員削減は大幅なものだが、HOSHOの削減率と比べるとまだ少ないと言える。

スマートコントラクト監査企業HOSHOは、実に80%に及ぶスタッフのレイオフを行ったのだという。3日、コインテレグラフが報じた

報道によると、HOSHOの共同創業者であるHartej Sawhney氏はレイオフの要因についてICO市場の低迷を挙げたという。2018年来の弱気相場の影響でICOの件数が減少したことで、同社が提供するスマートコントラクト監査の需要減少につながったという説明だ。また、ツールの自動化によって大量のエンジニアを必要としなくなったことも背景として付け加えているという。

用語解説:ICO

ICO(Initial Coin Offerring)とは企業等がプロジェクトを遂行するために仮想通貨を用いて行う資金調達のこと。ICOを実施する側が仮想通貨を発行し、出資者にそれを購入してもらうことで資金を調達する。従来の一般的な資金調達手法であるIPO(Initial Public Offering・新規株式公開)と極めて似た構図となるにもかかわらず従来のルールが適用されない為、投資家保護の観点から世界各国で規制強化の動きが進んでいる。

ネム財団も人員削減を計画か

取引所や関連企業での人員削減の動きは、仮想通貨業界全体の流れを表す一端と言えるかもしれない。しかし、仮想通貨そのものへの影響という意味においては、次の話題の方が投資家にとってより大きな関心事に違いないだろう。

31日にアメリカのオンラインメディアCoindeskが報じたところによると、なんとあのネム財団までもが資金難を理由に大幅な人員削減を行う可能性があるというのだ。

ネム財団は仮想通貨ネムを推進するために設立された非営利団体であり、ネムの発行者団体ではない(ネムの発行上限90億枚はすでに全量が発行済である)。しかしながら、世界中に支部を持ちネムのプロモーションを担ってきた中心的な組織であるだけに、仮想通貨ネムに対する影響力は計り知れない。

しかし、そのネム財団の主な資金源となる仮想通貨ネムの相場の下落ぶりは、ビットコインのそれ以上に深刻といえる。ピーク時には200円を越えていたネム価格だが、現在ではわすか数円という低水準を推移しているのだ。

このためネム財団では組織を大幅にスリム化して歳出を削減するとともに、プロモーションからプロダクトに重点を移した新たな組織体制を発表した。そしてネムコミュニティに対して1億6000万NEM(約750万ドル相当)の資金提供を要請したようだ。そして、この要請の結果次第では最大150人程度のレイオフを実施することを計画しているという。これは、約200人いる財団スタッフの約75%にあたるというからただ事ではない。

ネムは日本国内でも最もコミュニティ活動が活発な仮想通貨の一つであり、取扱う仮想通貨取引所も多い。はたしてネム財団が順調な再スタートをきるのに足る十分な資金を確保することができるのか。ネムコミュニティの対応に注目が集まっている。

急速過ぎた拡大。人員調整は必然か

事業縮小や人員削減の動きが続いていることそれ自体は、決して明るい話題とはいえない。しかし、それがすなわち仮想通貨・ブロックチェーンの終焉を意味するかというと、そう決め込むのは早計といえる。他方では仮想通貨・ブロックチェーン関連への積極的な新規参入の流れが続いており、その勢いは未だ留まるところを知らない。業界は縮小するどころか、むしろ着実に拡大し続けているのだ。

相次ぐ人員削減の発表は、仮想通貨投機の爆発的急伸にあわせて急拡大してきた企業が新しい環境に対応するための、むしろ必然的な行動に過ぎないと言えるだろう。

ABOUTこの記事をかいた人

仮想通貨投機の熱気に陰りが見え始めた2017年の暮れ頃から仮想通貨に関わり始め、投機よりも実用面に高い関心を持つ。国産仮想通貨プロジェクトやWebサービスの運営に携わりつつ現在に至る。