ブルガリア、EU法準拠で暗号資産の税務報告を強化:自己保管口座の引き出しも規制対象へ

ブルガリア政府がEU法準拠で暗号資産の税務報告を強化へ

ブルガリア政府は、EU(欧州連合)の最新基準に足並みを揃え、暗号資産に関する税務報告要件の大幅な強化に踏み切った。

一院制議会である国民議会において税務・社会保障手続法の改正案が圧倒的な支持を得て可決され、その後官報に公布されたことで正式な施行に向けた道が開かれた。これにより、同国はすでに同様の措置を導入している他のEU加盟国に追随する形となる。

今回の法改正は、EUのDAC(税務行政協力指令)の最新版である「DAC8」の規定を国内法へ反映させるものであり、暗号資産市場における不透明性の解消とマネーロンダリング(資金洗浄)防止を強力に推し進める狙いがある。

暗号資産サービスプロバイダーへの厳格な義務と対象範囲

新規定の下では、納税者に代わって暗号資産取引を処理するすべての事業体に対し、厳格なコンプライアンス義務が課される。具体的には、CASP(暗号資産サービスプロバイダー)はNRA(国立歳入庁)への登録が義務付けられるほか、顧客の本人確認情報や詳細な取引データを当局へ共有しなければならない。

報告対象となる情報の範囲は非常に広範であり、以下のような詳細データが含まれる。

ユーザーの識別情報:
個人納税者番号をはじめ、氏名、生年月日、住所、および納税居住国
取引データ:
デジタル資産の売買、送金、交換に関するカテゴリー別の詳細、ならびに法定通貨の動きを含む取引の件数と総額

あらゆる種類の暗号資産取引が報告の対象となり、法定通貨との交換(オンランプ/オフランプ)だけでなく、暗号資産同士の取引も網羅される。また、プラットフォーム上の口座から個人のセルフカストディ・ウォレット(自己管理型ウォレット)への引き出しや外部送金も記録・報告の義務対象となる。ただし、企業やプラットフォーム側には、外部のプライベートアドレス間で行われる暗号資産の直接的な移動を追跡する義務はない。

収集されたデータは電子形式でまとめられ、対象年の翌年6月30日までに提出することが求められる。なお、この新たな報告ルールの適用が開始される最初の期間は、2026年1月1日からとなっている。現地メディアの報道によると、こうした透明性の向上を目的とした一連の規定は、投資家の税負担を直接的に増加させたり、既存の課税標準の計算方法を変更したりする性質のものではない。

MiCA規制の動向と欧州全体における導入の遅れ

ブルガリアにおける法整備の背景には、欧州全体のMiCA(暗号資産市場)規制の本格的な施行がある。

MiCAに基づき、EU域内で暗号資産サービスを提供できるのは、正式な認可を受けた事業者のみに制限される。同国内におけるMiCAライセンスは金融監督委員会(FSC)によって発行される仕組みですが、これまでに発行されたライセンス件数はわずか2件だ。その一方で、EU加盟国の規制当局からすでにライセンスを取得している70社以上の企業が、EU全域での事業展開を認める旨を同監督機関に通知している。

ブルガリアの法改正プロセスは当初のスケジュールから遅れをとっており、EU加盟国に義務付けられていた2025年末までの対応には間に合わなかった。こうした足並みの乱れは同国だけに留まらず、例えばポーランドなど他の加盟国においてもMiCA導入をめぐる政治的な対立や法案の拒否権行使が発生するなど、欧州全体で導入のペースにばらつきが見られる。

それでも、国境を越えた自動税務報告の枠組みは着実に動き出しており、EUの税務当局間における最初の情報交換は、2026年の取引を対象として2027年9月に実施される予定だ。また、暗号資産を対象としたEUのマネーロンダリング防止関連の規制パッケージも2027年半ばに施行される見通しとなっており、欧州域内における暗号資産取引の完全な追跡可能性の確立が着々と進められている。

今後の展望とコンプライアンスに潜むセキュリティリスク

暗号資産の普及度においてEU内19位に位置するブルガリアにおいて、新たな規制が市場の健全な成長を促すのか、あるいは過度な負担となって成長を阻害するのかについては、専門家の間でも意見が分かれている。

さらに、国境を越えた税務報告制度の導入やデータの集中管理には、潜在的なセキュリティリスクも伴う。大規模な顧客データを取り扱うプラットフォームや当局システムにおいて、データ流出が発生した場合のリスクは深刻だ。実際に海外では、税務当局へのハッキングに関連して、暗号資産保有者が物理的な襲撃や誘拐・強盗といった violent crime(いわゆる「レンチ・アタック」などの物理的暴力)の標的になる事例も報告されている。

2027年に向けて、各国の税務・規制当局がマネーロンダリング防止や脱税防止といった法令遵守(コンプライアンス)の徹底と、ユーザーのプライバシーおよび「物理的な安全の確保」との間でいかに適切なバランスを維持していくのか、その動向に世界的な注目が集まっている。