ステーブルコインの保有制限で金融安定を優先
イングランド銀行(Bank of England)は、年内にステーブルコイン規制の枠組みを最終化する方針を進めている。
個人には最大2万ポンド(約200万円)、企業には最大1,000万ポンド(約2億円)の保有上限を一時的に設けることで、金融システムの安定を確保しつつデジタル通貨の利用拡大に対応する意図がある。今回の措置は、発行体に対する資産裏付けや説明責任を明確にすることと併せて、銀行預金からステーブルコインへの急激な資金移動を抑えるための保護策として位置づけられている。
英国が保有上限を導入する背景と目的
イングランド銀行は、個人は最大2万ポンド、企業は最大1,000万ポンドまでのステーブルコイン保有を一時的に制限する方針を取る。
副総裁サラ・ブリーデン(Sarah Breeden)氏は、英国では住宅ローン市場の多くが商業銀行の貸出に依存しているため、預金がステーブルコインに大規模に移ると銀行の貸出余力が低下し、家計や企業への信用供与に悪影響を及ぼす可能性があると指摘した。ブリーデン氏は、米国と英国では金融構造が異なる点にも言及し、英国は銀行ベースの信用供与が中心であるため、デジタル資金への急速な移行はシステム的リスクを高めると説明している。
今回の上限は恒久的な規制ではなく、市場が安定し、システム上の懸念が解消される段階で撤廃される見込みだ。また、企業規模に応じた例外措置が設けられる余地も残されている。新しい枠組みは2025年後半に最終決定される予定で、発行者の透明性向上、資産準備の健全性、説明責任の強化が盛り込まれる見通しである。これにより、利用者保護と金融安定を両立させながら、ステーブルコインが英国の決済インフラに徐々に組み込まれていくことが期待されている。
米国・EUに合わせた規制調整と国際的な競争環境
英国の方針は、米国とEU(欧州連合)が進めるステーブルコイン規制との整合性を図る動きと一致している。
米国では、サークル(Circle)やテザー(Tether)などの主要発行体に対し、銀行に近い監督モデルを適用する法案が議会で検討されており、準備金管理や監査体制の強化が議論されている。一方、EUはMiCA(仮想通貨市場規制)法により、ステーブルコインに対して1:1の準備金保持や大規模流通時の制限を義務づけ、国際基準の形成を進めている。
日本やシンガポールでも、発行者に銀行・信託会社ライセンスを求める制度が採用されており、国際的に「透明性と信頼性を担保した発行モデル」が主流になりつつある。英国はこうした動きを背景に、過度な規制でイノベーションを阻害しないよう配慮しながら、消費者保護と市場競争力の両立を目指している。
イングランド銀行は、明確なルールが整備されることで、英国が信頼性あるデジタル資産市場の中心地としての地位を確立できるとみている。規制の整備は抑制ではなく、適切な枠組みのもとで技術発展を促進する基盤として位置づけられている。
























