「ビットコイン・ジーザス」脱税事件に終止符 約4,800万ドルを支払いへ
「ビットコイン・ジーザス」の異名で知られるロジャー・バー(Roger Ver)氏が、DOJ(米国司法省)との脱税事件で暫定和解に合意した。
起訴猶予合意に基づき、約4,800万ドル(約73億円)の支払いを履行すれば告訴は取り下げられる見通しだ。今回の決着は、仮想通貨規制の方向性を変える節目として注目を集めている。
事件の発端は、バー氏が2014年に米国市民権を放棄した際に発生した「出国税」にある。約2億4,000万ドル(約366億円)相当の仮想通貨を申告せず、虚偽の納税申告書を提出したとされ、2024年にはスペイン・バルセロナで開催された仮想通貨カンファレンスの最中に逮捕された。
詐欺と脱税の容疑で訴追されたものの、弁護団は一貫して政治的な動機を否定し、起訴を「不当な標的化」と主張してきた。今回の合意は暫定的な段階にあるが、条件を満たせば刑事責任が免除される可能性が高いとみられる。
政治的背景と仮想通貨規制への影響
バー氏は事件の収束に向けて、政治的なネットワークを積極的に活用した。トランプ大統領の側近であるロジャー・ストーン氏に60万ドルを支払い、問題となった税制条項の撤廃を求めるロビー活動を依頼したほか、第2次弾劾裁判でトランプ氏の弁護を担当したデビッド・ショーン氏も起用。自身の訴訟を「武器化された司法制度」の象徴として訴えた。
こうした動きは、トランプ政権の司法姿勢の変化を象徴している。司法省は長期化した訴訟を整理しつつ、過度な仮想通貨取締りを抑える方向へと方針を転じた。SEC(米国証券取引委員会)やCFTC(米国商品先物取引委員会)も仮想通貨へのスタンスを見直しており、コインベース(Coinbase)やリップル(Ripple)、OpenSeaなど主要案件の訴訟が相次いで終結している。
一連の流れは、仮想通貨業界に対する米政府の規制緩和を示す明確なサインとも受け止められている。
今後の焦点と業界の見通し
バー氏の和解は、仮想通貨初期投資家に対する当局の姿勢を左右する可能性がある。寛容な政策が続けば、今後も同様の係争案件で和解が選択されるケースが増えるだろう。
ただし、有力者のみが救済される構造が続けば、市場の公平性や法的信頼性を損なう懸念も残る。今回の合意は、単なる個人事件にとどまらず、仮想通貨と法の関係を再定義する一歩ともいえる。市場の健全性を保ちながら、自由な経済圏をどう築くか。その答えを試される局面が、再び訪れている。