早期解任交渉と監視体制の見直し
バイナンス(Binance)は、DOJ(米国司法省)が任命したコンプライアンス監視員の早期解任に向けて交渉を進めている。
対象となる監視は、2023年に締結した総額43億ドル(約6,317億円)の和解に付随する条件の一つで、通常は3年間の運用が想定されている。今回の動きは、監視体制の適用範囲や期間を再評価する流れの中で、同社が主要条件から解放される可能性を示すものだ。
監視体制の経緯と背景
バイナンスは、マネーロンダリング(資金洗浄)対策や制裁関連の問題に対応するため、外部監視の下に置かれている。
監視を担うのはフォレンジック・リスク・アライアンス(Forensic Risk Alliance)で、2024年5月に任命された。創設パートナーのフランシス・マクラウド(Frances McLeod)氏が、規制遵守状況の検証や是正プログラムの有効性評価を率いる。任期途中の解任は稀であり、早期終了が実現すれば異例のケースとなる。
この見直しは、司法省が方針メモで示した「仮想通貨の規制当局ではない」という立場とも整合する。今後はテロ資金供与やハッキングなど、より明確な連邦犯罪に関わる事案を優先する姿勢が打ち出されており、企業監視の運用にも調整が及んでいる。
バイナンスの対応と業界への影響
和解以降、バイナンスはコンプライアンスの強化を継続してきた。
2024年には約2億ドルを投じ、体制整備を加速。リチャード・テン(Richard Teng)CEO(最高経営責任者)は、規制遵守を競争優位として位置づける。さらに7名の新たな取締役会を設置し、従来の中央集権的な運営からの転換を進めている。こうした取り組みは、監視体制の見直しに向けた前提条件の一部を満たす動きでもある。
監視が緩和または終了すれば、同社にとって規制リスクの軽減となり得る一方で、今回の件は過去最大級の執行措置に関わるもので、仮想通貨業界に与える示唆は小さくない。企業監視の運用をどこまで見直すのかという論点は、他の事業者にも波及し得るため、市場は結論を注視している。
財務省による監視は継続
司法省の監視は全体措置の一部に過ぎない。43億ドルの和解は、財務省の金融犯罪取締ネットワークと外国資産管理局による監督も含む。
前者では34億ドル(約4,996億円)、後者では9億6,800万ドル(約1,422億円)の和解が設定されており、これらの監視は別途継続している。司法省の見直しが直ちに他機関へ波及する兆しは今のところない。
今後の注目点
監視終了の可否と時期、終了後の体制維持が焦点となる。社内統治の定着、資金洗浄対策の実効性、制裁遵守のモニタリングが引き続き問われる見込みだ。結論次第では、バイナンスの事業運営だけでなく、業界全体のコンプライアンス水準にも影響を与える。