英国議員のXアカウントが詐欺プロジェクトの宣伝に悪用される

英国議員のXアカウントから仮想通貨詐欺を宣伝する投稿が表示されたスマートフォンと、不気味な赤い光に包まれた英国議会の建物

政治家のSNSアカウントを標的とした巧妙な仮想通貨詐欺

英国労働党に所属するルーシー・パウエル(Lucy Powell)議員のXアカウントが、仮想通貨詐欺プロジェクト「House of Commons Coin」の宣伝に悪用されていたことが明らかになった。

このプロジェクトは、英国議会の下院である「House of Commons」の名称を無断で使用し、まるで政府公式の仮想通貨であるかのような印象を与えていた。詐欺プロジェクトの投稿では、英国の国旗や政治的な象徴を多用したデザインが使われており、CoinMarketCapにも一時的に偽のトークン情報が掲載されていたことが確認されている。

国家機関の信頼を装い、政治家の影響力を利用するという悪質な手口が、仮想通貨詐欺の新たな段階に入っていることを示している。

偽トークンの宣伝に利用された投稿内容

同議員のアカウントからは、「House of Commons Coin」が議会公式の新しいトークンであるかのような内容が投稿され、注目を集めた。

投稿には、イーサリアム(Ethereum/ETH)上のスマートコントラクトアドレスや、偽のミントページへのリンクが記載されており、ユーザーを詐欺的な販売サイトへと誘導する構造となっていた。

ルーシー・パウエル議員のXアカウントから投稿された偽のHouse of Commons Coinの宣伝ツイート

出典:ダニエル・グリーン

投稿では「House of Commons Coin(HOC)」という名称とともに、「人々の力をブロックチェーンへ」「透明性・参加・信頼」といったスローガンが並べられていた。加えて、ソラナ(Solana)チェーン上のリンクやコントラクトアドレスも提示され、プロジェクトの正当性を装っていた。これらは視覚情報と文言の両面から信頼性を演出する内容で、被害者の警戒心を緩める狙いがうかがえる。

短期間での信頼獲得と投資の呼び込みを狙った、極めて計画的な手口だったことがうかがえる。その後、問題の投稿は削除された。同議員のスタッフはBBCに対し、アカウントがハッキングされたことを認めた上で、次のように説明している。

アカウントの安全を確保し、誤解を招く投稿を削除する措置を迅速に講じた。

現時点では被害の規模や金銭的損失の有無については明らかにされていないが、関係当局が調査を進めているとみられる。

SNSと仮想通貨詐欺の危険な連携

SNSを通じた仮想通貨詐欺はこれまでも発生してきたが、今回は議員アカウントという公的な情報源を直接悪用した点で、信頼性への影響が大きかった。

国家機関の名称を使い、政治家が支持しているかのように見せかける構図は、一般ユーザーを深く欺く危険性を含んでいる。実際、HOCは同議員の投稿直後に一時的な注目を集め、DEX Screenerによれば時価総額は最大24,000ドルに達したが、その後急速に失速。取引件数は736件、総取引額は約71,000ドルにとどまったとされる。

特にXのような拡散力の高いSNSでは、政治家や著名人の発言が「準公式」なものとして扱われやすく、偽情報であっても一気に拡散するリスクが高い。今回のケースは、仮想通貨業界とSNSの双方にとって、改めてセキュリティや検証のあり方が問われる事例となった。現時点でX社やNCSC(英国国家サイバーセキュリティセンター)からの公式声明は出ていないが、政治家や公的機関のアカウント管理、SNS側の認証・監視体制の見直しが急務であることは明白だ。

オンライン詐欺師はフィッシングメールや盗んだ認証情報を使って著名人のアカウントにアクセスし、価値のないトークンを発行。フォロワーに投資を促し、投稿が削除される前に自分の保有分を売却して利益を得る。こうした行為は仮想通貨市場で繰り返されており、コインシェアーズ(CoinShares)のルーク・ノーラン(Luke Nolan)氏は今回のケースを「典型的なポンプ・アンド・ダンプ詐欺」だと評している。

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2022年1月から仮想通貨を触り始め、みるみるうちにNFTにのめり込んでいった。 現在はWeb3とECの二刀流で生計を立てている 得意なのは喋る事、好きな食べ物はカレー、好きなゲームは格闘ゲーム