米国財務省、トルネードキャッシュ制裁が執行不能と判断され控訴を取り下げ

制裁を象徴するミキサーと木槌が描かれたイラスト。暗号通貨規制の難しさを表現。

米国財務省がトルネードキャッシュ訴訟の控訴を断念

米国財務省は、プライバシー重視型ミキシングサービス「トルネードキャッシュ(Tornado Cash)」に対する制裁措置を巡る訴訟で、控訴を取り下げたことが明らかとなった。

今回の動きは、制裁の執行が実質的に不可能であるとの判断に基づくもので、同プロジェクトをめぐる法的議論に一つの転機をもたらす可能性がある。この決定は第11巡回控訴裁判所に提出され、同裁判所は判決を破棄し、下級裁判所に訴訟を完全に棄却するよう命じた。

ブルームバーグ法律事務所の報告によれば、財務省とコインセンターが訴訟を取り下げることで合意した結果であり、制裁措置の法的根拠が失効したことを示している。この判断は、違法取引を助長したとされるトルネードキャッシュに対する制裁措置の適法性を争点とする訴訟に終止符を打ち、仮想通貨規制をめぐる重要な法廷闘争の一区切りとなった。

控訴取り下げの背景と法的争点

トルネードキャッシュは、プライバシー保護を目的とした分散型のミキシングサービスで、2022年にOFAC(米国財務省外国資産管理局)によって制裁対象に指定された。

その背景には、北朝鮮のラザルス・グループ(Lazarus Group)による資金洗浄への関与疑惑があり、制裁は10億ドル(約1,463.8億円)以上の不正資金の流通に関与したとされる点を根拠としている。これに対し、コインセンターを含む業界団体は、トルネードキャッシュが特定の個人ではなくオープンソースのスマートコントラクトで構成されており、制裁措置は表現の自由や適正手続きといった憲法上の権利を侵害していると主張した。

今回の訴訟棄却は、OFACがトルネードキャッシュを制裁リストから除外したことを受けて実現したものだが、法的論点の解消には至っていない。OFACが法廷での争いを避けたことから、制度的限界を示すものと受け取られている。

分散型規制の限界と今後の展望

米国財務省による控訴取り下げは、分散型プロトコルに対する直接的な制裁の限界を浮き彫りにした形であり、これにより今後は、開発者個人やインフラ提供者への規制強化、あるいは新たな法整備の必要性が議論されるとみられる。

今回の制裁関連の民事訴訟は終結したが、トルネードキャッシュ共同開発者であるローマン・ストーム(Roman Storm)氏に対する刑事裁判は継続中であり、2025年7月14日から審理が開始される予定である。ストーム氏は、CoinbaseやEthereum Foundationから支援を受けながら、政府が「行為」ではなく「ソフトウェアコード」を標的にしていると反論している。この主張は徐々に支持を集め始めており、別件の民事訴訟も新たに進行中である。

報道によれば、ストーム氏は自身の弁護のために証言を行うかどうかをまだ決めておらず、弁護団はトルネードキャッシュがビジネスではなくツールである点や、同氏が犯罪行為から個人的利益を得ていない点を強調する構えだ。米国司法省は、ストーム氏およびロマン・セミョーノフ(Roman Semenov)氏が、北朝鮮のハッカー集団ラザルス・グループによる仮想通貨強奪事件を含む、10億ドル以上の資金洗浄に関与していたと主張している。

また、2024年5月には別の開発者アレクセイ・ペルツェフ(Alexey Pertsev)氏がオランダでマネーロンダリング(資金洗浄)の罪により有罪判決を受け、懲役5年の刑が言い渡された。ペルツェフ氏は「スマートコントラクトは自動実行され、自身には制御権がなかった」と主張していたが、裁判所はその主張を退けた。

この事件は、中央管理なしで運用される分散型技術に対して、規制当局がどのようにアプローチすべきかという広範な議論の火種ともなっており、プライバシー保護と規制遵守のバランスをいかに取るかという課題が、今後も業界全体で問われ続けることになる。

 

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2022年1月から仮想通貨を触り始め、みるみるうちにNFTにのめり込んでいった。 現在はWeb3とECの二刀流で生計を立てている 得意なのは喋る事、好きな食べ物はカレー、好きなゲームは格闘ゲーム