テザーによるUSDT凍結の背景
ステーブルコイン発行企業のテザー(Tether)社は、米国政府の制裁対象となっているロシアの仮想通貨取引所ガランテックス(Garantex)において、2,700万ドル相当のUSDTを凍結した。
ガランテックスは、 OFAC (米財務省外国資産管理室)の制裁リストに指定されており、違法取引に関与している疑いが持たれている。同社の決定は、ガランテックスが制裁回避のためにテザー(Tether/USDT)を使用している可能性が指摘される中で行われた。同社は過去にも規制当局と協力し、不正利用が疑われるウォレットを凍結した実績がある。
ガランテックスは2025年3月6日(木曜日)、テレグラム(Telegram)上でテザーの行動を「ロシアの仮想通貨市場に対する戦争」と非難し、サービスを一時停止したことを発表。取引所側は「解決に向けて積極的に対応する」としつつ、ロシアのウォレットに保管されているUSDTが危険にさらされていると警告した。

ガランテックスとは
ガランテックスはエストニアで設立された後、主要業務をロシアに移した仮想通貨取引所であり、違法資金の洗浄に関与していた疑いが持たれている。
2022年に米国の制裁対象となり、その後もロシア国内の銀行を通じて業務を継続していた。EU(欧州連合)理事会は、ガランテックスがEU制裁対象のロシアの銀行と密接な関係を持つとして、2024年2月26日に制裁リストに追加。これはロシアのウクライナ侵攻に対する16次制裁の一環であり、EUが仮想通貨取引所を制裁するのは初めての事例となる。
また、ガランテックスは、ダークネット市場やランサムウェアグループの活動を支援した疑いが持たれており、米国財務省は同取引所が違法資金のマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与に利用されていた可能性があると指摘している。
米国と欧州による締め付けの強化
米シークレットサービスはFBI(Federal Bureau of Investigation:連邦捜査局)やユーロポール(Europol:欧州刑事警察機構)、司法省刑事局と連携し、ガランテックスのウェブサイトを押収した。
現在、公式サイトは「Garantexのドメインは押収令状に基づき米国シークレットサービスによって押収されました」という通知に置き換えられている。
また、米国と英国の当局は、仮想資産取引所を通じて処理された200億ドル(約2.95億円)を超えるUSDT取引を調査中である。この取引は、ウクライナ侵攻後のロシアに課せられた制裁違反の最大規模の事例の一つとみなされている。
テザーの凍結措置により、ステーブルコインの管理体制に対する議論が再燃している。中央集権型ステーブルコインの制御可能性に懸念が高まり、分散型ステーブルコインの必要性を訴える声も増えている。一方で、今回の制裁措置がガランテックスの違法行為を取り締まる正当な対応なのか、それとも政治的な圧力の一環なのかについては議論が分かれている。ガランテックスが違法な資金洗浄や犯罪組織の取引に直接関与していた証拠は明確に示されておらず、一部では「ロシアの仮想通貨市場を弱体化させるための動き」と見る向きもある。
テザーの対応は規制当局との協調姿勢を示すものとして評価される一方で、USDTの信頼性への影響も議論されている。ロシア議会の情報政策委員会の副委員長アントン・ゴレルキン氏は議論の中で次のように述べている。
これは西側諸国による圧力の終わりではない」と述べ、「ロシアの仮想通貨市場を完全にブロックすることは不可能だ。