中国政府がデジタル通貨政策の主導権を明確化
中国の大手テクノロジー企業であるアントグループ(Ant Group:蚂蚁集团、※アリババ傘下)とJD.comが、香港で進めていたステーブルコイン開発計画を凍結した。
2025年10月18日(土曜日)付の英・フィナンシャル・タイムズの報道によれば、中国の中央銀行にあたるPBoC(中国人民銀行)とCAC(中国サイバースペース管理局)が民間企業による通貨発行への懸念を示し、両社に対して開発の中止を求めたという。
関係者は「本当の規制上の懸念は、中央銀行か市場の民間企業か、どちらが最終的な通貨発行権を持つかということだ」と指摘している。政府は金融主権の確保を最優先課題とし、通貨関連の技術革新を国家主導で進める姿勢を明確化する動きが示された。
国家の統制強化とデジタル人民元への警戒
アントグループとJD.comは、香港で実施されているステーブルコイン試験プログラムへの参加や、デジタル債券などのトークン化金融商品の発行を検討していた。しかし、規制当局の介入によりこれらの計画は中断された。
北京は同時に、証券会社やシンクタンクなどの関連機関に対してもステーブルコインの宣伝を控えるよう通達しており、民間部門が通貨発行に関与することを制限する方針を強めている。
中国は中央銀行が主導するe-CNY(デジタル人民元)の導入を国家戦略として推進しており、民間によるステーブルコインの発行はe-CNYと競合する可能性があるとみられている。政府はデジタル資産分野における統制を強化し、通貨主権を守る姿勢を鮮明にした。
香港のトークン化市場にも影響が及ぶ
香港では8月にステーブルコイン発行者の申請受付が開始され、人民元建てステーブルコインの国際展開が期待されたが、北京の慎重姿勢が影響し、プロジェクト全体の進行は鈍化している。
SFC(香港証券先物委員会)の幹部が、ステーブルコイン規制の枠組みが詐欺リスクを高める可能性を警告したことも追い打ちとなり、市場の楽観ムードは後退。さらに、中国証券監督当局が香港の複数証券会社に対し、RWA(実世界資産)のトークン化活動を一時停止するよう指示したとの報道もあり、民間のデジタル資産関連ビジネス全体が停滞局面を迎えている。
今回の動きは、国家主導のデジタル通貨政策を優先し、民間企業による金融イノベーションを抑制する姿勢を示した格好だ。今後も当局は、デジタル人民元を軸にした中央集権的な通貨システムの確立を進め、国際的な金融主導権の維持を図るとみられる。