Paxosが300兆ドル誤発行しNYDFSが確認を進める
PayPal(ペイパル)連動ステーブルコイン「PYUSD」を発行するPaxos(パクソス)が、誤って300兆ドル(約4京5,296兆円)相当のトークンを鋳造したことが明らかになった。
NYDFS(ニューヨーク州金融サービス局)は事実関係の確認を進めており、内部エラーによるものとされるが、ステーブルコインの信頼性と管理体制への懸念が高まっている。
2025年10月15日(水曜日)、PYUSDの発行元であるPaxosは、イーサリアム(Ethereum)上で300兆ドル相当のステーブルコインを誤って発行した。NYDFSは本件についてPaxosおよびPayPalと連絡を取り、事実関係の確認を進めていると発表した。誤発行は一時的に世界のGDP(国内総生産)を超える規模となり、仮想通貨市場に衝撃を与えた。
オンチェーンデータによると、誤発行はPaxosが管理するウォレット間での送金処理中に発生。同社は約1時間後に全ての誤発行トークンをバーンし、再発行した3億ドル(約452.8億円)分のみが有効であることを確認した。Paxosは「外部からの侵入はなく、顧客資産に影響はない」と説明したうえで、内部技術的エラーであったことを明らかにしている。
At 3:12 PM EST, Paxos mistakenly minted excess PYUSD as part of an internal transfer. Paxos immediately identified the error and burned the excess PYUSD.
This was an internal technical error. There is no security breach. Customer funds are safe. We have addressed the root…
— Paxos (@Paxos) October 15, 2025
午後3時12分(米国東部標準時)、Paxosは内部送金の一環として、PYUSDの超過分を誤って発行しました。Paxosは直ちにこの誤りを特定し、超過分のPYUSDをバーンしました。
これは内部の技術的エラーであり、セキュリティ侵害は発生していません。お客様の資金は安全です。根本原因は既に解決済みです。
同社はこのエラーを即座に修正し、根本原因を特定・対応済みとした。Paxosの発表によれば、今回の事象はセキュリティ侵害ではなく、顧客資金への影響もなかったとしている。DeFi(分散型金融)プロトコルのAave(アーベ)などはリスク回避のため、PYUSD市場を一時的に凍結する対応を取った。
PoRの欠如と中央集権リスクに注目集まる
今回の誤発行を受け、ステーブルコインの担保検証を自動化する技術PoR (Proof of Reserve)の必要性が改めて注目されている。
Chainlink(チェーンリンク)のコミュニティリエゾンを務めるザック・ライネス(Zach Rynes)氏は「PoRが実装されていれば、この事態は防げた」と指摘。PoRはオフチェーン準備金をリアルタイムで監査し、十分な裏付けが確認できなければ新たなトークン発行を自動的に阻止する仕組みだ。
VBLの市場アナリストGhost氏は「一企業が担保なしに300兆ドル規模の資産を生成できたことは構造的リスクだ」と指摘。グノーシス創設者のマーティン・ケッペルマン(Martin Köppelmann)氏も「スマートコントラクトに自動チェックを導入すべき」と提案している。
Paxosは現在、GENIUS法に基づく国家信託認可を申請中だが、今回の件が審査に影響を及ぼす可能性もある。Better Marketsの政策ディレクター、アマンダ・フィッシャー(Amanda Fischer)氏は「ステーブルコインの効率性は評価できるが、人為的エラーへの耐性は依然として脆弱だ」と警鐘を鳴らした。
市場反応は限定的も信頼回復が課題に
この誤発行により、PYUSDの価格は0.03%の下落にとどまり、24時間取引量は70%以上増加し、投資家の動揺は限定的だったが、SNSでは「Paxosが米国債を返済できるほどのコインを発行した」といった皮肉も飛び交った。
Paxosは誤発行を迅速に修正し、最終的な供給量が変動していないことを確認した。しかし、今回の件は中央集権的なトークン管理体制の脆弱さを改めて露呈した形だ。ステーブルコイン市場の信頼回復には、PoRの実装や規制当局による監視強化など、透明性を高める取り組みが急務となる。