中国におけるブロックチェーン活用の新局面
中国の国有企業、SFIH(深セン福田投資ホールディングス)がイーサリアム(Ethereum)のパブリックチェーン上で世界初となる上場RWA(実世界資産)デジタル債券を発行した。
債券は「FTID TOKEN 001(ティッカー:FTID001、中国語略称:福币)」としてオンチェーンで登録・管理され、2025年8月29日(金曜日)に深セン市場とマカオ市場へ上場した。利率は2.62%、償還は2年。格付けはフィッチ・レーティングスのA−である。
香港での実行ではGF Securities(香港)が主幹事を務め、CMB International、CICC、Minsheng Capital、Orient Securities International、Hong Kong Rongtong Securities、Guoyuan Internationalなどが参加した。香港ではこれまで私募中心だったトークン化債券が、公募・上場によって投資家のアクセスを広げた点でも節目となる。
発行の詳細と技術的背景
この債券はイーサリアム上に直接登録され、透明性、決済効率、国際投資家の参加容易性を高めた。SFIHは海外債発行の経験を踏まえ、RWA商品の需要拡大を捉えて発行に踏み切ったと説明している。
発行に必要なエンドツーエンドの技術は香港のスタートアップNVTが提供した。NVTのジェイ・チャオCEO(最高経営責任者)は、トークン化が実践段階へ移行し、伝統的な資本市場とオンチェーン基盤を結び付ける意義を強調した。なお、発行額は5億元(約104億円)である。
政策的背景と国際的影響
香港はデジタル金融ハブ化を進めており、トークン化証券の公募・上場はその流れを後押しする。
香港金融管理局(HKMA)はステーブルコイン規制を導入。当NEXTMONEYの特集記事「香港のステーブルコイン発行ライセンスに企業77社が関心を寄せる」でも報じているように、8月末時点で77の組織がライセンス申請に関心を示している。初期の発給は少数にとどめ、無認可のステーブルコインのプロモーションには注意を促している。
中国本土では仮想通貨の取引とマイニング禁止が継続する一方、ブロックチェーンやRWAなど特定ユースケースは認められている。本件はその政策の延長線上に位置付けられる。グローバルにはブラックロックのトークン化米国債ファンド「BUIDL」など金融機関による試行が広がっており、トークン化債券が主流の調達手段へ発展する可能性が意識されている。
バイナンス(Binance)創業者のCZ氏は、オンチェーン取引が米ドル中心に偏り、人民元やユーロの存在感が薄い現状を指摘。香港証券取引所を含むアジア市場が戦略的に対応しなければ力を失う可能性があると警告した。RWAのトークン化は潜在力が大きいが、実装は容易ではないとの見解も示されている。