ロンドンIPO断念の背景と全体像
オーストリア拠点の仮想通貨取引所ビットパンダ(Bitpanda)は、ロンドン証券取引所での新規株式公開を取り下げた。
最大の理由は流動性であり、同社が求める規模の資金調達と投資家需要を満たせないと判断したためである。エリック・デムス(Eric Demuth)共同創業者兼CEO(最高経営責任者)は「ロンドンではもはや必要な流動性が得られない」と述べ、上場候補をフランクフルトとニューヨークに絞る考えを示した。
上場は長期戦略の一部であり、上場先は同社の野望に見合う市場である必要があるとしている。2024年は営業収益4億2,600万ドル(約630.7億円)を記録し、MiCA(仮想通貨市場規制)承認の下、ドイツやフランス、スペインにサービスを拡大している。
規制環境とロンドン市場の課題
英国では2025年に「Financial Services and Markets Act 2000 (Regulated Activities and Miscellaneous Provisions) (Cryptoassets)(2000年金融サービス・市場法(仮想通貨)命令)」が施行され、仮想通貨取引所が従来の金融サービスと同等の監督下に入った。
透明性や消費者保護、運用レジリエンスの基準が義務化され、制度面の整備は進んだが、市場の厚みは依然として課題である。英国のIPO活動は2025年上半期に30年ぶりの低水準となり、国際的な資本ハブとしての地位に懸念が生じている。デムス氏は、フィンテック企業Wise(ワイズ)が主要上場をニューヨークへ移した動きを引き合いに、市場構造の弱さを指摘した。
シンクタンクからもDLT(分散型台帳技術)分野での先行者優位を失っているとの批判が出ており、規制の明確化だけでは企業誘致に直結しない現実が示されている。
米独市場を軸とした今後の展望
ビットパンダは上場時期を未定としつつ、フランクフルトまたはニューヨークでの公開を検討している。
両市場は投資家層と資金プールが厚く、仮想通貨企業の上場実績も蓄積されている。米国ではサークル(Circle)社がニューヨーク証券取引所で12億ドル(約1,776億円)を調達し、Bullishは11億ドル(約1,627.5億円)規模のIPO(新規株式公開)で株価が公開価格を上回った。
また、ジェミニ(Gemini)もナスダック上場を「GEMI」で申請。FigureやBitGoも米国市場を選択しており、資本市場進出の重心は米国に集まる流れである。一方で、同社は英国で600種超のデジタル資産取引サービスを開始し、アーセナルFCとのスポンサー契約も発表している。上場戦略は流動性と市場規模を重視しつつ、英欧での事業展開を並走させる方針である。