アジア有数のクリプト・フレンドリー国家 〜堅調なシンガポールの近況〜
シンガポールは、世界でも有数のクリプト・フレンドリーな国としての地位を確固たるものとしている。香港、上海、東京などと並び、アジア有数の金融センターであることは言わずもがなだが、同国の中央銀行であり、レギュレーターであるシンガポール通貨庁(Monetary Authority of SIngapore =以下MAS)によるバランスの取れた法的枠組みによるところが大きい。
MASは、10月に今年2回目となる金融政策引き締めを行なっているが、堅調な経済成長がこれを後押ししている。2000年代に入ってからの急激な経済成長は引き続き持続し、世銀の報告によれば、GDPは2013年に300b USDを突破、2017年には330bまで数字を伸ばし、過去5年間の平均成長率は3.5%となっており、「獅子の都(シンガプーラ)」の名が示すような力強さを見せている。
そのMASは、11月20日、暗号通貨のデリバティブ取引に関するConsultation Paperを発出した。Consultation Paperとは、特定の法律案や政策、ガイダンスなどに対し、広く意見を収集するもので、日本の公官庁におけるパブリックコメントにあたり、現在募集中も含め、1998年以降314件のConsultation Paperが発出されている。なお、今回の意見収集は、12月20日を期限としている。
同ペーパーに関しては、既に多くのブロックチェーン/クリプト関連メディアで取り上げられているが、暗号通貨デリバティブに関して、ヘッジファンドや資産運用会社からの関心の高まりに対する規制当局からのレスポンスと位置づけられる。MASとして、BTCやETHなどのペイメント・トークン・デリバティブの上場や取引が、認可取引所で行えることを念頭においたものとなることがポイントだ。
シンガポール・アジアの現状
シンガポールの認可取引所は、MASによれば、Asia Pacific Exchange、ICE Futures Singapore、Singapore Exchange Derivatives Trading、そしてSingapore Exchange Securities Trading Limitedの4つ。証券先物法(SFA)の規制下における原資産(Underlying Assets)に分類されていないBTCやETHが、2020年の早い段階でMASの管理下におかれ、デリバティブ取引が上記4取引所で行われるようになるかもしれない。
そのシンガポールでは、11月11日から15日の間がFinTech Weekとなり、4度目となるSingapore FinTech Festivalや、CointelegraphによるBlockshowなどのイベントが開催された。著者も上述のイベントおよび関連するサイド・イベントやディナーレセプションなどに参加してきた。
FinTech Festivalは、ブロックチェーン企業も多く参加していたが、伝統的な金融機関のブロックチェーン、AI、マシンラーニングなどの新興技術を用いた新しい取組みが目を引いた。FinTech単体のイベントとしては間違いなく世界最大級であり、前年は45,000人(130カ国)が来場している。スピーカー数も300人を超え、今年は、Citi Group、HSBC、Nasdaq、Deloitte、JP Morgan Chase、Accentureなどから、Cレベル、シニア・マネジメントクラスが登壇した。
今年アジアの他国で開催されたFinTech関連の主要イベントと比較しても、その規模の大きさがよくわかる。
参考
Money 20/20 Asia (シンガポール)
来場者数:3,000人+、 スピーカー数:320, 主なCレベルスピーカー/法人:Barcleys, DBS, MAS, HSBC
FinTech Abu Dhabi (アラブ首長国連邦)
来場者数:5,000 +、スピーカー数:100+、主なCレベルスピーカー/法人:Coinbase, Former Governor of the People’s Bank of China,Nasdaq, AD Securities Exchange
Hong Kong FinTech Week (香港)
来場者数:10,000+、スピーカー数:200、主なCレベルスピーカー/法人:ConsenSys, TransferWise, Stock Exchange of Hong Kong, HongKong Monetary Authority, Standard Chartered HK
昨年のFinTech Festivalから設けられたレギュレーター・ゾーンも健在で、今年は18か国20機間が参加。UAEからは、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)と、ドバイ国際金融センター(DIFC)の2機関が参加していたが、いずれも、レギュレーター・ゾーン外にも独立した巨大ブースを構え、FinTech分野におけるグローバルなプレゼンスの拡大に余念がない。
ADGM内の金融サービスに関する規制中核機関Financial Services Regulatory Authority(FSRA)は、暗号通貨運用にかかる包括的な法的枠組みを他の中東国家に先駆けて昨年6月に発出している。今年に入っても続け様にガイドラインが発出されており、デジタル・アセットはFSRAの元で規制され、セキュリティ・トークン、暗号資産、デリバティブなどの定義づけもされている。なお、FSRAの現CEOリチャード・テン氏は、シンガポール出身でシンガポール取引所(SGX)の元Chief Regulatory Officerだ。
私自身、UAE(ドバイ)に過去7年住んでいた上、中東地域とは過去15年以上の付き合いがある。地域的に深い思い入れもあるので、中東、特に湾岸地域のコラムについては、別途改めて寄稿したい。
最後に、シンガポールの人々のブロックチェーンや暗号通貨に対する見解について触れておく。我々QRCが今年9月に実施した調査(Global STO, RegTech Blockchain Industry Survey)において、他のアジア諸国と比べシンガポールの回答者は、ブロックチェーン技術により高い信頼感を置く傾向にあり、暗号通貨に対しよりアグレッシブな投資マインドを見せている。フレンドリーな規制や、イベントを含めた積極的な取組みに加え、こうしたマインドもシンガポールの業界における優位性を高めていると言えよう。なお、調査報告の全レポートは、下記QRC Websiteで閲覧可能 https://www.qrc.group/insights
本稿では、存在感を一層強めるシンガポールについて取り上げた。引き続き、世界のSTOやRegTech、ブロックチェーン全般について、様々取り上げていきたい。
コラム著者
Shogo Ishida / CEO, QRC HK Ltd.
RegTechやGovTech分野で世界をリードするQRC HKの代表。QRCは、レギュレートリー・コンプライアンスのプロフェッショナル集団として、世界中の法人や公的機関などにアドバイザリーを行う一方、RegTech分野のマーケット・リーダーへの投資も行う。
拠点のあるアジアのみならず、中東、アフリカ、欧州など世界中にクライアントを有し、著者は毎月10か国を訪問する。政官民いずれの勤務経験があり、日本語、英語のみならず、5か国語に精通している。
・公式Twitter:Shogo Mubarak Ishida(@shogo_m_i)