成長著しいベトナム|ブロックチェーン大国への道程
年末年始をタイで過ごし、正月に香港に戻った後、2日から韓国、マレーシア、ベトナムと、2020年最初の1週間をアジア各国に出張した。その後、数カ国回った後、17日にウズベキスタンに入った。この間、氷点下と30度を何度か交互に経験するが、体内の温度計は至って正常。つくづく、堅強な肉体に生まれたことに感謝するとともに、日々の自己管理によって成り立っていることを実感する。私はどんなに多忙であっても、睡眠時間を削ってジムに行く。寝ているくらいなら体を強くすることによって、病気の予防を行うようにするタイプだ。
ウズベキスタンの現状
ウズベキスタンは、ソ連崩壊に伴い1991年に独立後、カリモフ大統領が2016年の逝去まで26年間にわたって国の舵取りを行った。カリモフ大統領の後を継いだミルジョエフ大統領は、外資誘致の取り組みを中心とした積極的な経済政策を進めている。暗号通貨やブロックチェーンに関わる大統領令、法律や政府指針もこの間にいくつも出されている。もっとも新しいものものは、安価な電気料金をアドバンテージとした国主導マイニングプールを作っていくというもの。昨年12月に同国初のライセンス手交がなされた取引所UZNEXなどの動きについては、我々の取り組みも含め次号に詳述する。
ベトナム・ホーチミン
遡って、ホーチミンは昨年11月以来だ。過去2年半、ふた月に1度のペースで来ている。無数のバイクが生み出す喧騒は相変わらずだが、道路上の熱気はそのまま国の勢いを体現しているようにいつも思わされる。2011年以降の経済の安定重視政策をベースに、安価な労働力を背景としてASEANでも高い経済成長率を達成し続けている。中国が長年享受していた「アジアの工場」の座が、2013年以降、日韓製造業の移転が続いたことにより、経済成長への基盤がより強固になった。
当地の人材派遣会社によれば、ベトナムにおけるIT関連の大学・短大の卒業生は毎年5万人近くに及ぶ。国際数学オリンピックや物理オリンピックといった国際的な舞台で度々ゴールドメダリストを輩出しており、政府のIT人材育成プロセスは特に若年者を中心に成功している。対外的にもオフショア開発センターとしてのブランドを確立しており、賃金の継続的な上昇による海外法人の他国展開は懸念事項として残るが、それでもベトナムの力強さは継続するように思う。
この成長力の根源はどこか。「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」とは武田信玄の言葉だが、国家を支える強靭な体力の源泉は人であり、ベトナムも例外ではない。ベトナムに暮らす外国人にベトナム人の性質を聞けば、皆、勤勉であると答える。これは本質だろう。
今回の出張中も、あるブロックチェーン企業の会議室で夜10時まで役員らと会議をしていたが、その時間でも残ってPCに向かう多くの社員らの姿を見た。「彼らの終業時間は何時ですか?」と尋ねると、「6時だが、仕事があれば率先して残業する」と社長の弁。残業を必ずしも是だとは思わないが、様々な国の企業を訪問し、定時に電気が落ちて一斉に帰路に着く従業員の姿を見ることが一般的な中では、国家成長の根元がそこにあるような気がした。
海外からの投資が増加傾向に
テック産業への海外からの投資も伸びている。2019年1月には、1000万人のユーザーを持つE-wallet大手のMomoが、米国のWarburg Pincusから1億米ドルの資金調達を行った。7月には、Softbankとシンガポールのソブリンウェルズ・ファンドのGICが、ペイメント・ソリューション会社のVNPayに対し3億ドルの投資を行う予定との報道もなされた。シンガポール大手銀行のUOBやPwCらのリサーチでは、2019年のQ3末までの東南アジアにおける国別FinTech投資額では、シンガポールの51%に次いでベトナムが36%となり、同分野をリードするシンガポールと並び、ベトナムに注目が集まっていることを反映する結果となった。
昨年11月、ホーチミン市人民委員会のチャン・ビン・トェン( Tran Vinh Tuyen) 副委員長は、ブロックチェーン・オリエンティッドなスマートシティの建設計画を発表し、韓国のCBAベンチャーとブロックチェーン技術の推進に関するリサーチについてのMOUを締結している。このスマートシティに関する法的枠組みの設計をいま進めているところと聞いている。中国でも同様の取り組みが進んでいるが、こうした動きが進むとブロックチェーン技術市場の拡大に拍車がかかる。Fortune Business Insightsのリサーチによれば、2017年に16億米ドル市場だった世界のブロックチェーン技術市場は、2025年には211億ドルまで拡大すると見込まれている。
BTCやその他暗号通貨は、支払い手段として認められていない
法的枠組みについては、暗号通貨についても同様に検討が進められている。現時点では、ベトナム国内において、中央銀行の認可する支払い手段以外での支払いは法的に認められておらず、BTCやその他暗号通貨は、支払い手段として認められていない。2017年末ごろは、ホーチミン市内でもBTCによる支払いを認めていたレストランをいくつか見たが、現在はルールが認知され、違反した際の罰金も高額であることから、こうした店舗を見ることもない。
ベトナムの証券会社によれば、ベトナムの銀行口座保有者数は4,320万人で人口全体の45%だ(個人口座数7,270万口座、人口9,554万人)。日本の普通口座数は12億口座とずば抜けて多いが、韓国で1.5億口座(人口5,147万人)、英国で1.7億口座(人口6,644万人)であるから、これらの国と比較すると少ないことがわかる。新興国との比較で言えば、ブラジルが約70%、ナイジェリアが約50%、インドネシアが33%となっている。
一方で、ベトナムの携帯電話の契約ライン数は人口比148%で、Eコマース市場も今年46億ドルまで拡大。暗号通貨を含むデジタル通貨が拡大する土壌は十分と考えられる。今後、中央銀行を中心に、ベトナムのレギュレータが規制を緩和する方向に舵を切った場合、ここまで培われたブロックチェーン技術と相まって、業界におけるベトナムの立ち位置が一気に上がってくるかもしれない。そういった意味でも、今後発表されるであろう政府の方針や法律には注視が必要だ。
ホーチミン出発の前夜は、ブロックチェーン企業の「忘年会」に招待された。ベトナムを含む多くの東南アジアでは旧暦の正月を盛大に祝うため、1月25日に向けた今の期間は正月前夜で大きな盛り上がりを見せる。街中も派手に彩られ、華やかなムードを一層演出している。訪れるたびに成長を実感させてくれるような賑やかな街並みを見ながら、空港に向かった。
Shogo Ishida / CEO, QRC HK Ltd.
RegTechやGovTech分野で世界をリードするQRC HKの代表。QRCは、レギュレートリー・コンプライアンスのプロフェッショナル集団として、世界中の法人や公的機関などにアドバイザリーを行う一方、RegTech分野のマーケット・リーダーへの投資も行う。
拠点のあるアジアのみならず、中東、アフリカ、欧州など世界中にクライアントを有し、著者は毎月10か国を訪問する。政官民いずれの勤務経験があり、日本語、英語のみならず、5か国語に精通している。
・公式Twitter:Shogo Mubarak Ishida(@shogo_m_i)