クラーケンがIPOを行わず安定性を優先する姿勢を示した
大手仮想通貨取引所クラーケン(Kraken)は、仮想通貨関連企業のIPO(Initial Coin Offering:新規株式公開)が相次ぐ中で上場を急がず、財務基盤と事業の安定性を軸とした経営方針を維持している。
共同のアルジュン・セティ(Arjun Sethi)CEO(最高経営責任者)氏は、同社が追加資本を必要としておらず、非公開企業のままでも十分に自立して運営できる状況にあると強調した。
IPOを急がない理由と市場環境を整理する
現在、仮想通貨市場ではセンチメントの改善を背景に、複数の大手企業がIPOに踏み切っている。
ジェミニ(Gemini)やブルリッシュ(Bullish)、eToro(イートロ)に加え、インフラ関連企業も株式市場に参入しており、米国では仮想通貨企業の上場が一つの流れになりつつある。トランプ政権が仮想通貨業界に対してより寛容な姿勢を示しているとの見方もあり、こうした環境がIPOへの関心を高めている。
一方でクラーケンは、この流れにただちに加わることは選んでいない。同CEOは、同社は公開市場にアクセスしなくても事業継続に十分な資本を有していると説明し、バランスシートが健全であることを繰り返し示した。外部からの資金調達に依存せずとも、リスク管理能力を発揮しながら独立して運営できる点が強みだとしている。
これまでには、2024年半ばの報道でクラーケンが株式公開の準備を進めている可能性が示唆され、2026年初頭のIPO案にも言及されてきた。しかし現時点で、同社が具体的な上場時期を示すことはない。同CEOは、競合他社の動きを追随する必要は感じておらず、「取り残されるかもしれない」という恐怖心に基づいて意思決定を行っていないと述べている。IPOは利益率や収益モデルを示すうえでのベンチマークになり得るものの、それによってクラーケンの優先順位や長期戦略が変わることはないという立場だ。
※動画は全編英語で放映されており、日本語訳が必要な場合は、画面右下に表示されている『字幕』アイコンをクリック。次に、右隣に表示されている『設定』アイコンをクリックし、表示されたメニューの中から、「字幕」⇒「自動生成」⇒「日本語」の順に設定する事で、大まかな日本語訳が表示されます。
この姿勢は、短期的な市場の流行や資本市場の勢いよりも、自社のペースと内部の安定性を重視する方針を鮮明にしている。クラーケンにとって重要なのは、上場のタイミングの早さではなく、持続的な成長とリスク管理の両立だといえる。
150億ドル評価とボラティリティへの向き合い方を示す
クラーケンがIPOを急がない背景には、評価額と資金調達の実績もある。
2011年に設立された同社は、これまでに約5億3,000万ドル(約822.8億円)を調達してきた。9月に実施した大型のベンチャー投資ラウンドでは、企業価値が150億ドル(約2.3兆円)に達している。この水準の評価額により、株式市場に上場しなくても事業基盤を強化できる余地が生まれている。
市場では、ビットコイン価格が9万6,000ドルを下回り、10月初旬の高値から20%を超える調整局面に入っている。こうした下落は通常、取引高の減少につながりやすいが、同CEOは短期的な価格下落に過度な警戒感を示していない。あらゆる資産クラスにおいてボラティリティ(価格変動差)は常に存在し、短期の変動だけで企業の方向性を変えるべきではないとの考え方だ。
長期視点と事業戦略の一貫性を維持する
セティ氏は、より重要なのはビットコイン(Bitcoin/BTC)やイーサリアム(Ethereum/ETH)のような資産を、現金や株式と比較したうえで長期的に保有する確信だと述べている。
クラーケンは、短期的な価格変動を自社ビジネスの脅威とは見なしておらず、長期的な開発戦略とサービス提供に焦点を当て続けている。
仮想通貨企業の上場ラッシュが続く中でも、クラーケンは自社の財務体質とリスク管理能力に基づいて独自のスタンスを取っている。非公開企業としての柔軟性を活かしながら、安定性と成長の両立を図る姿勢が際立つ構図となっている。
























