キルギス議会が仮想資産に関する法律を改正
キルギス議会は、「On Virtual Assets(日本語訳:仮想資産に関する法律)」の改正案を3回の審議を経て可決し、仮想通貨に関する制度を包括的に整備した。
新法は、発行や流通、マイニング、ライセンス制度などあらゆる領域を網羅し、従来の金融市場規制・監督庁(FSRS)から大統領任命の新機関へ権限を移す内容を含む。さらに、国家仮想通貨準備金と国営マイニングという新しい枠組みを法的に導入した点が大きな特徴である。これにより、政府はデジタル資産を直接取得し、管理・活用できる環境を整え、同国経済の安定とデジタル化推進に向けた基盤を固めようとしている。
国家仮想通貨準備金と国営マイニングの骨子
国家仮想通貨準備金は、政府が取得やマイニング、トークン化を通じて蓄積する資産ポートフォリオとして位置付けられる。
ビットコイン(Bitcoin/BTC)のような既存仮想通貨に加え、法定通貨やRWA(現実資産)に裏付けられたステーブルコインも対象に含め、分散的かつ安定的な準備金構築を狙う。
国営マイニングについては、政府が自国のインフラや資源を活用してマイニングをする権限を持つ。電力料金は民間事業者と同じ条件が適用され、電力供給への影響を抑える仕組みとなっている。一方で、国会議員ダスタン・ベケシェック(Dastan Bekeshec)氏は、ビットコイン1枚のマイニングに80万キロワットの電力が必要であり、これはアパート1,200戸分の1カ月分に相当すると警鐘を鳴らした。冬季の需要増を踏まえ、国営マイニングが家庭向け電力供給に悪影響を及ぼす可能性が議論されている。
デジタル資産制度の整備と地域展望
改正法はステーブルコインとRWAトークンを正式に定義し、規制サンドボックスを導入した。
ソラナ(Solana)などのブロックチェーンを用いたRWA実証も可能となり、法的確実性と投資家保護、透明性の向上が見込まれる。VASP(仮想資産サービスプロバイダー)のライセンス制度も明文化され、ライセンス付与機関とAML/CFT(アンチマネーロンダリング/テロ資金供与防止)を監督する機関の二層体制が導入されることで、国際的な信頼性を高める仕組みとなった。バクィト・シディコフ(Bakyt Sydykov)経済貿易大臣によれば、2025年初めの7カ月間で仮想通貨取引高は1兆ソムに達し、約10億ソムの税収を生んだ。国内には169の関連事業者が存在し、そのうち13が取引所、11が登録済みマイニング企業である。
CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)「デジタルソム」の導入計画も進行中である。サディル・ジャパロフ(Sadyr Japarov)大統領は、2025年中にパイロット試験を行い、2026年末までに正式な発行可否を判断するとしている。2026年1月以降、国内で事業を営む仮想通貨取引所には10億ソムの証明済み資本金を保有することも義務付けられる。
国家仮想通貨準備金や国営マイニングの創設は、このCBDC実装に向けた基盤整備とも密接に関わる。同時に、今回の制度整備は海外投資を呼び込み、キルギスタンが中央アジアにおける仮想通貨規制の先進国としての立場を強める契機になると考えられている。もっとも、エネルギー消費や社会的コストといった課題は残されており、規制サンドボックスを通じた技術検証と制度の運用力が将来の成否を分けるだろう。