JD.comはステーブルコイン展開で国際決済の大幅短縮を目指す
中国eコマース大手JD.comは、ステーブルコインを活用し、越境決済コストを最大90%削減し、決済時間を10秒以下に短縮する計画を発表した。
時価総額900億ドル(約13兆円)のJD.comの会長兼創業者であるリュウ・キョウトウ(Liu Qiangdong:劉強東)氏は、が今週開催された公開フォーラムの中で、ステーブルコインを活用して国境を越えた資金移動の仕組みを刷新する計画を発表。同社は、ブロックチェーンを基盤とした新たな決済インフラにより、国際取引の時間とコストを大幅に削減し、ほぼ即時の決済と手数料の最大90%削減が可能になると述べている。この計画は、JDのブロックチェーンプラットフォーム「智真連鎖」を通じたB2B決済から開始し、その後、個人向け決済にも拡大していく予定だ。
リュウ氏は、世界規模でのステーブルコインライセンス取得を推進する中で、法定通貨にペッグされたトークンによって銀行が実現できない数秒での決済を実現したいと考えており、次のように述べている。
現在、企業間の送金には平均2~4日かかり、コストも非常に高い。Bエンド決済が完了したら、Cエンド決済にも参入していく。いつか、世界中で消費する際に誰もがJDステーブルコインを使えるようになることを期待している。
B2B決済の改革を目指す
同社の取り組みの中核を成すのは、子会社の京東貨幣科技(Jingdong Coinlink Technology)が主導する、香港の規制サンドボックスにおけるステーブルコインのパイロットプロジェクトだ。
同氏は、従来のコルレス銀行に依存している企業間のクロスボーダー決済は、通常2~4日かかり、多額の手数料が発生する可能性を指摘。同社は、ライセンス取得済みのステーブルコインとJD独自のeコマース帝国を基盤に、大陸をまたいで10秒決済の実現をめざしていく。これを実現するために、同社は自社のブロックチェーンネットワーク「智真連鎖」を活用。このネットワークは、既にサプライチェーンファイナンス事業を通じて年間約70億ドル(約1兆円)の取引を誇る。
この構想は、銀行、決済機関、その他の第三者機関を介さず、企業がステーブルコインを用いて直接決済できるようにすることで、当初は企業間取引に焦点を当てているものの、さらに大規模な事業展開を見据えている。
インフラの安定性と拡張性が証明され次第、同社はステーブルコインの利用を消費者向けプラットフォームにも拡大する計画で、JDのeコマース決済にステーブルコイン決済を統合し、約6億人にのぼるアクティブユーザーが日常の買い物にデジタル通貨を利用できるようにしていく。
人々の関心が集まるステーブルコイン
ステーブルコインの争奪戦に目を付けている中国の大手テクノロジー企業は、JDだけではない。
アリペイの運営で知られるアント・グループは最近、香港で2025年8月に施行される新法に基づき、国際事業部門が香港でステーブルコインのライセンスを申請すると発表。また、シンガポールとルクセンブルクでも規制当局の承認取得を検討している。ペイパル(PayPal)やマスターカード(MasterCard)といった欧米の金融大手は、既に独自トークンベースの決済システムを導入または試験運用しており、業界が新たな段階に入っているという印象を強めている。
独自のブロックチェーンを基盤とし、小売エコシステムと直接統合するというJDのアプローチは、課題も抱えており、ステーブルコインのインフラは単なる技術的な問題ではなく、規制の迷路であり、特に数十の管轄区域をまたいで資金を移動させる場合にはなおさらだろう。