運用方針の転換と対象チェーン
ステーブルコイン発行会社テザー（Tether）は、USDTの凍結計画を撤回し、5つのブロックチェーン上でのトークン送金を継続可能とすると発表した。
対象はオムニレイヤー（Omni Layer）、アルゴランド（Algorand）、イオス（EOS）、ビットコインキャッシュ・プロトコル（Bitcoin Cash SLP）、クサマ（Kusama）である。ユーザーはこれらのチェーンで引き続きUSDTを移転できるが、新規発行と償還は停止され、公式サポートの対象外となる。
当初は2025年9月1日（月曜日）にサポートを終了しスマートコントラクトを凍結する予定だったが、各コミュニティからのフィードバックを受けて方針を見直した。
影響の大きいチェーンと残高規模
影響度合いを見ると、Omni LayerのUSDT純流通額が8,290万ドル（約122億円）で最も大きい。EOSは約420万ドル（約6億円）、Bitcoin Cash SLPとAlgorand、Kusamaはいずれも100万ドル（約1.5億円）未満である。
一方、USDTの主要流通はTron（トロン）とEthereum（イーサリアム）に集中しており、Tronには約800億ドル（約11.8兆円）、Ethereumには約720億ドル（約10.6兆円）相当が流通している。BNBチェーンも67億8,000万ドル（約9,985.4億円）規模と上位に位置する。
テザーは2023年8月にOmni Layer、Kusama、Bitcoin Cash SLPでの発行停止を実施し、2024年6月にはEOSとAlgorandでも発行を停止してきた。今回の決定はその流れを踏まえつつ、完全撤退ではなく送金機能を残す形で整理したものである。
市場戦略と政策環境
テザーは、流動性と開発者活動が強いエコシステムに資源を集中させる方針を示している。
需要の高いEthereum、Tron、BNBチェーンを優先しつつ、Solanaやアービトラム（Arbitrum）、ベース（Base）など、他の活発な仮想通貨エコシステムではUSDTではなくUSDCの利用が中心となっている現状も踏まえる。今回の見直しは縮小ではなく集中であり、運用負荷を抑えつつユーザー利便性を確保する決定である。
政策環境の変化
米国ではGENIUS法が署名・成立し、ドル連動資産に対する規制面の後押しが進む。米財務省は、約2,859億ドル（約42兆円）規模のステーブルコイン市場が2028年までに2兆ドル（約294.5兆円）を超える可能性を見込む。こうした環境変化の中で、テザーのチェーン選別と機能整理は、市場の実需と制度面の整備に合わせてUSDTの運用を最適化する動きである。
