金融制度批判の波紋と広告規制の強化
英国ASA(広告基準局)は、仮想通貨取引所コインベース(Coinbase)が制作したテレビ広告「Everything is fine(すべて順調)」について、視聴者に誤解を与える恐れがあるとして、放送を禁止した。
この広告では、従来の金融機関による高額な手数料や非効率さを風刺的に取り上げ、仮想通貨がそれらの問題の解決策であるかのように描かれていた。しかし、仮想通貨の持つリスクや規制面での制限には言及されておらず、ASAはこの点を問題視した。
ASAとコインベースの応酬、広告の背景にある意図
今回のASAの決定は、仮想通貨に関する広告が透明性やリスク開示の面で慎重な審査を受ける状況下で下されたものだった。
これに対し、コインベースのブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)CEO(最高経営責任者)はXで、「私たちの広告が英国のテレビ局により放送禁止になったことで大きな反響を呼んだ。言えないことには、何かしらの真実があるはずだ」と投稿。
Our ad which got banned in the UK by the TV networks has sparked quite a reaction. If you can’t say it, then there must be a kernel of truth in it.
Needing to update the system and improve society is not a political statement on either party in the UK (some have tried to turn it… https://t.co/VJqyYnnI2W
— Brian Armstrong (@brian_armstrong) August 3, 2025
さらに「この広告は政治的主張ではなく、従来の金融制度がうまく機能していないことに対する問題提起であり、仮想通貨がその改善策を示すものである」と述べた。
広告は2分間のミュージカル仕立てで、「すべて順調だ」と繰り返すダンサーたちの背後に、インフレや貧困、荒廃した街並みといった社会問題が映し出される構成となっていた。締めのフレーズ「すべてが順調なら、何も変えないで」は、既存制度に対する風刺的なメッセージとして注目を集めた。
アームストロング氏は、英国の規制姿勢が依然として保守的であるとし、「米国では同様の広告が問題なく放映された」と比較した。
英国の規制環境と今後の業界影響
独立系シンクタンクOMFIFの報告によれば、英国は仮想通貨政策の整備においてEUや米国に遅れを取っており、ガイドラインの不明確さが「政策の先送り」を招いているとされる。
さらに、Fair4All Financeのデータによれば、英国の成人の44%が経済的に不安定な状況にあり、アームストロング氏は「こうした社会背景の中でこそ金融の見直しが必要である」と述べている。
広告規制の動向とコインベース業績
コインベースの広告は、従来の金融制度が抱える問題点を風刺的に描き、「すべて順調(Everything is fine)」というキャッチコピーを用いて、現状への問題提起を行った内容だった。
ASAは、こうした描写が仮想通貨のリスクや限界を軽視していると判断し、規制違反と結論付けた。これに対しアームストロング氏は、「攻撃や検閲の試みは拡散を助長する」と述べ、表現の自由と議論の重要性を強調した。FCAなど英国の規制当局は、広告ガイドラインの整備と規制の実効性向上に向けた対応を進めている。
今回の広告禁止措置は、仮想通貨業界全体の広告戦略や発信内容の見直しに影響を与えるとみられている。また、社会的議論を誘発するきっかけとして、広告手法の再定義を迫る事例とも言える。
なお、コインベースは2025年第2四半期の売上高が15億ドル(約2,213億円)と発表しており、前年同期比で3.3%増、前四半期比では26%減となった。小売取引の低迷が業績を圧迫しており、1株当たり利益は0.12ドルと、ウォール街の予想(1.19ドル)を大きく下回った。